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「鬼と姫君」
【ファンタジー 恋愛小説】

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鬼―季節を待つとき―-4

自分のように異形の姿をした子だったらどうしよう。
―鬼の子が生まれてしまったらと。


恐ろしくて恐ろしくて、男は思わず胸の内を妻に吐露した。



すると女は笑った。
―些事と。


異形でもいい。
鬼の子でもいい。

貴方の子だもの―。


「貴方のように、優しい子になればいい」


かつて、黒い瞳に雫をいっぱいに溜めて泣いていた幼い少女は、母親の顔で笑う。

幼さの残る妻の顔は、しかし、穏やかで男を安心させる。

あの夜の闇のように黒々とした瞳の子が生まれてくるかと思うと楽しみな気持ちも、湧いてくる。



世は相変わらず、理不尽で不可思議なことばかりで。

だけど。
だからこそ、世界は彩りに満ちているのかもしれない。



鬼灯丸は額に手をやる。
そこにはもう不条理の象徴はないけれど。
そのことに一抹の寂しさを感じた自分に苦笑した。



初秋の夜が虫の音とともに更けていく。

そろそろ妻から縫い物を取り上げなければと思うが、火の側で優しい顔をして針を進める姿がまるで一枚の絵のようで。

ずっと眺めていたい気がして。



暖かくなる頃には三人で桜を見に行こう。
男は急に思い付く。


そのとき男が抱く小さな命は、きっと黒目がちの大きな瞳の子―。



(了)

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