鬼―季節を待つとき―-2
*
男の子はふうっと息をついた。
今日、もう何度めかになるため息。
思い悩むのは、世の中の理不尽さでも己の境遇のことでもなくて。
先日から彼の頭と心を占めている、一人の女の子のことだった。
小鹿のような黒目がちの大きな瞳。
ふっくらとした白い頬に花びらのような小さく紅い唇。
その大きな瞳で男の子を見つめ、そして笑うのだ。
花が咲くように。
日の光が溢れるように。
そんな表情を返されることは初めてだった。
少女のその笑顔を見るたび、男の子の胸の奥深くが痛む。
けれど。
額に手を這わせば、二つの硬い山が出ているのが分かる。
今にも皮膚を破ってにょっきりとその姿を表しそうであった。
まだ、髪の毛で隠れている分にはいい。
しかし、やがて角が生えてきたら―。
少女も怯えた目で男の子を見るようになるのだろうか。
あの黒々とした大きな瞳が恐怖に歪む様を見るのは、耐えられない―。
ふと気付けば、日は傾き始めている。
少女は今日も男の子が来るのを待っているだろう。
きっと、いつまでも待っている―。
男の子は立ち上がるや否や地面を蹴った。
山を素晴らしい速さで駆け下りる。
別れは、もう少し先でいいはずだ。
額に角が表れるその時まで―。
自身が真実、鬼となるその日まで。
男の子は少女のもとに急いだ。