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「鬼と姫君」
【ファンタジー 恋愛小説】

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鬼―季節を待つとき―-2




男の子はふうっと息をついた。

今日、もう何度めかになるため息。



思い悩むのは、世の中の理不尽さでも己の境遇のことでもなくて。
先日から彼の頭と心を占めている、一人の女の子のことだった。


小鹿のような黒目がちの大きな瞳。
ふっくらとした白い頬に花びらのような小さく紅い唇。

その大きな瞳で男の子を見つめ、そして笑うのだ。


花が咲くように。
日の光が溢れるように。


そんな表情を返されることは初めてだった。


少女のその笑顔を見るたび、男の子の胸の奥深くが痛む。


けれど。
額に手を這わせば、二つの硬い山が出ているのが分かる。
今にも皮膚を破ってにょっきりとその姿を表しそうであった。

まだ、髪の毛で隠れている分にはいい。

しかし、やがて角が生えてきたら―。


少女も怯えた目で男の子を見るようになるのだろうか。


あの黒々とした大きな瞳が恐怖に歪む様を見るのは、耐えられない―。


ふと気付けば、日は傾き始めている。

少女は今日も男の子が来るのを待っているだろう。

きっと、いつまでも待っている―。


男の子は立ち上がるや否や地面を蹴った。

山を素晴らしい速さで駆け下りる。

別れは、もう少し先でいいはずだ。

額に角が表れるその時まで―。



自身が真実、鬼となるその日まで。



男の子は少女のもとに急いだ。


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