青山恵理・修学旅行の夜-1
「修学旅行で、櫻木くんに告白する」
ミカにそう宣言したら、気持ちに踏ん切りがついた。
はっきり言ってオクテで、恋愛経験値もほとんどゼロの私が、卒業するまでずっと胸にしまっておくつもりだったこの想いを、ぶつけてみようという気になったのは本当につい最近のことだ。
仲良しのミカに彼氏が出来たのが、今から1ヶ月前―――。
それからというもの私は、本当にうんざりするほどのノロケ話と、「恵理も早くカレシ出来るといいのにねえ」という上から目線のコメントを、毎日ひたすら聞かされ続ける羽目になった。
その恐るべき「恋愛自己中オーラ」をずっと浴びているうちに、くやしいやら羨ましいやらで、気がついたらいつの間にか私までそういう気分になってしまっていたのだ。
「――恵理聞いて!あたし、かなりいい情報仕入れちゃった!」
出発前日の放課後、教室を出ようとしていた私のところに、ミカが「旅行のしおり」を手に駆け寄ってきた。
「……コクるんなら最終日の夜!これしかないよっ!」
「……は?」
私の決意を知ってからというもの、ミカはまるで自分のことのようにずっとウキウキしている。
最初はそれだけ親身になってくれているのだと思った。
しかし冷静になって考えてみれば、自分に直接関係ないと思っているからこそ、こんなに無責任にはしゃげるのかもしれないとも思う。
告白なんて、私にとっては人生で初めての一大決心。
それをミカは、まるで花火大会やお祭のような「イベントの一種」として楽しんでいるように見えてしかたがなかった。
「――いい情報って何よ?」
どうもミカの話は軽薄な感じがして本気で期待出来ない。
「なーんと!渋川くんと櫻木くん、最終日旅館の部屋一緒なんだって!だからさ、夜こっそり二人で部屋行かない?」
渋川くんというのは、ミカの彼氏の名前だ。
「私がいれば遊びに行っても不自然じゃないでしょ!」
まあ……きっかけとしては悪くないのかもしれないけど………。