青山恵理・修学旅行の夜-3
「よしっ!今チャンス!」
先生が別の階の見回りに行くためにエレベーターに乗ったのを確認すると、私たちは脱いだスリッパを握りしめて薄暗い廊下を忍者のように走り抜け、一気に櫻木くんたちの部屋の前にたどり着いた。
色んな緊張で心臓がバクバクしている。今にも背後から誰かに怒鳴られそうな気がして、ひどく気が焦った。
「……おじゃましまぁす。起きてるぅ……?」
ミカが襖を遠慮がちに開けると、そのわずかな隙間から、暗い室内と懐中電灯らしき光がちらちら見えた。
10畳くらいの部屋には布団が5組み並べて敷いてあり、男の子たちはその中央あたりに集まってみんなでしゃべっていたようだった。
部屋の中は廊下より更に照明が暗いため、パッとみただけでは誰がどこにいるのかよくわからないような状況だ。
「……シブカワくん…いるぅ?」
ミカが小声で名前を呼ぶと、男の子たちの中心で寝転んでいた渋川くんが、ひょいと上半身を起こした。
「よぅ――ミカじゃん」
部屋が暗いせいもあるのだろうけど、顔にかかったロン毛を無造作にかきあげたしぐさが、ゾクッとするくらい色っぽく見えた。
渋川くんはバンドもやってるし、大人っぽくて派手だから、同い年だけどすごく年上みたいな感じがして、近寄りがたいタイプだ。
いつも中指にはめているゴツゴツしたシルバーのアクセサリーとか、肩に入ってる怪しいマークのタトゥーとか、彼の身につけているもの全てが、私の生活とは遠く掛け離れている。
だけどミカはそのミステリアスなところが「たまらなくイイ」という。
「へぇ……青山も一緒なんだ?今ちょうどみんなで『男ばっかじゃつまんねー』って言ってたとこなんだよね。早く入れば」
渋川くんにうながされて薄暗い男部屋にそっと足を踏み入れたが、その一歩で自分がひどくふしだらな子になってしまったような気がして、ほんの一瞬、親の顔が頭をよぎった。
なんか……罪悪感……。
「――あっ!あんたたち……何読んでんのっ!」
突然響き渡ったミカの鋭い声にハッと我にかえってよく見ると、渋川くんの手には、明らかに未成年向けではなさそうな怪しげな雑誌が堂々と広げられている。