青山恵理・修学旅行の夜-2
「部屋なんか行って、ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫だって!私にまかしといてよ!いいムードになるようにうまくやってあげるからさ!……ね?」
「……………」
ついこの間まで、私の家で一緒にアイドルのDVDをだらだら見ながら「暇だねぇ」なんて言ってたミカが、急に先輩面して仕切ってくるのが正直うざい。
「修学旅行明けにすぐダブルデートしよっ!私行きたいと思ってたとこあるの!」
浮かれた口調で言いながら、早くも手帳を広げてデートの日時決めようとするミカ。
初めて経験する「恋愛の先輩」という立場が楽しくてしかたないのだろうが―――そもそも、その自信に満ちあふれた態度に根拠はあるのだろうか。
仲を取り持ちさえすれば100%うまくいくと思っているんなら大間違いだし……。
ミカの計画通り告白して、もし失恋したらその時は……その時は……カフェ・ド・メープルの高級ケーキバイキングを絶対におごらせてやる――――!
私は、そう強く心に誓った。
――――――――――――
そして迎えた最終日の夜。
消灯時間を過ぎて、部屋のみんなが規則正しい寝息をたてはじめた頃、私たち二人はこっそりと布団を抜け出した。
時計は深夜2時をまわっている。
薄暗い旅館の廊下はシーンと静まり返っていて、起きている生徒なんてもう誰もいないように思えた。
床に敷き詰められた真っ赤なじゅうたんがひどく淫靡に感じられて、気持ちがそわそわと浮足立つ。
「……いきなり行って大丈夫かなぁ?寝てたらどうすんの?」
この段階になって急に怖じけづいてしまった私は、ミカのジャージの袖をひっぱりながら、小声で囁いた。
「大丈夫だよぉ。男子はまだ絶対起きてるって!渋川くんに『たぶん夜中に遊びに行く』って言ってあるし」
「……そ…そう?」
うざいうざいと思いながらも、こういう時ミカの神経の太さは実際頼りになる。