恋なんて知らない-7
「…また、来てもいいですか?」
---また、来ます。
そう言ったつもりだったのに。
自分の口から出た言葉をようやく理解して恥ずかしくなり、私は急いで荷物をまとめて図書室を出た。
何か言おうにも、上手いごまかしの言葉なんて思いつかなくて、下を向いて走った…つもりだった。
「おい、」
あれ、と思って後ろを向くと、先生の手が私の手首を掴んでいた。
「わぁ。」
驚いて手を引くと、先生の手がすっと離れる。
私は何も言えなくて、ただなぜだか涙が出そうで、真顔が壊れないうちに背を向けて小走りに教室に向かった。
「----------。」
私の後ろで囁いた、先生の低い声が耳に残った…。
「あれ、畑本さん。」
「…あ、笠井さん。」
教室に戻ると、笠井さんが席に座っていた。
校内アナウンスが流れたというのに帰るそぶりはなく、どこか楽しそうに扉を見ている。
きっと、もうすぐ急ぎ足でやって来てあの扉を開ける人を、彼女は待っているんだ。
「畑本さん、なんだかいつもと違う?」
「え、そう、かな。」
「なんとなく…何かあったの?」
「あ、え、えと、わ、私」
私、何かあったのかな?
考えの遅い私の口からは、意味を成さない音ばかりがこぼれ落ちる。
「あ、ごめんね。そんな、探るつもりはなかったんだけど。」
優しい笠井さんに、私はただ一生懸命に首を振る。
「…あ、じゃあ、私帰るね。」
二人の邪魔をしたくなかったから、私はもごもごと呟いた。
「うん、気をつけてね。
…あ、畑本さん、」
呼び止められて、私は呆けた顔で振り返る。
「手、出して。」
言われるままに手を出すと、その手の平に、レモンキャンディをのせてくれた。
「レモンの飴、好きじゃなかったっけ?」
彼女の言う通り、私はレモンキャンディが大好きだった。
だけど、なんで知ってるんだろ?
「前に一袋持って来たの見ちゃったんだ。」
「あ、どうもありがとう。」
ぼうっと笠井さんの話を聞いていた私は、慌ててお礼を言った。