恋なんて知らない-6
「その生徒は、彼女は…---俺に恋愛感情を持っていた。」
先生は私の目をじっと見たまま言った。
「恋愛、感情。」
私も先生の目を見たまま言った。
「だけど、畑本はそういうタイプじゃないだろ?」
なぜだかその言葉は、私を傷つける。
どうして…?
先生、なんでそんな風に私を見ているの?
どちらも視線を外さない。
時計の音だけがやけに耳に響いた。
かち、かち。
どこかで一緒に呟いた。
「私にも恋愛感情があれば、また質問に来ても---そばにいても、良いんですか?」
先生は目線はそのままに、コト、と眼鏡を置いた。
「…何、言ってんだよ。」
「それなら私、先生に恋します。」
支離滅裂な私の言葉。
静けさがうるさい図書室。
先生の綺麗な瞳が揺れた、気がした---…
『---下校時刻になりました。生徒の皆さんは速やかに下校して下さい。繰り返します…』
突然校内アナウンスが流れて、時計を見る。
もう、こんな時間。
そう思い、目線を戻すと、高橋先生は何事もなかったように眼鏡を布で拭いて、いつもと同じようにかけ直していた。
もう"先生"の顔、してる。
「畑本、」
「解説どうもありがとうございました。」
先生の言葉を遮り、私は教材をまとめてお辞儀をする。
「いつも押しかけて貴重な時間を使わせてしまって、すみません。」
「畑本、」
「でも、私、」
私は見ないようにしていた先生の瞳を見た。