恋なんて知らない-5
「お前、これ以外のいつも質問しにくる問題も全部分かってて、質問してるだろ。」
「すみません。」
とりあえず謝ってみる。
「あと、試験。」
「試験。」
ついおうむ返しにしてしまう私に、眉をひそめる。
「期末試験でわざと間違えて点数落としただろ。」
「いや、その、私はそこまでは…。」
「してないか?」
冷静な目が私をじっと観察する。
「あー…した、かもしれないです。」
「お前なぁ。」
「すみません。」
先生はますます呆れた表情になり、神経質な仕草で眼鏡を外した。
やっぱり先生の目って綺麗だなぁ。
「畑本がどうしてこんなことをしてるのか分からないから、俺は聞いたんだよ。」
「『どうして』。」
どうしてだろう?
私はまたぼんやりと考える。
先程浮かんだ"どうしてばれたのだろう"という疑問も、まだ隣に並んでいるけれど。
「…何年か前に、お前みたいに何度も質問しにくる奴がいたんだ。」
「はい。」
「おそらく理解しているであろう問題の解説を、わざわざ聞きに来てた。」
「はぁ。」
「あいつが俺のところに来る理由は…なんとなく分かったから。だから、その生徒には聞かなかった。」
先生はいつもは見せない表情で、どこか遠くを見つめていた。
私はまた、心の真ん中がきゅっとするのを感じた。
「なんで…」
「は?」
「なんでその人は、先生のところに、質問しに来たんですか?」
私はたどたどしく口を動かす。
先生は少し気まずそうに、でも冷静さは崩すことなく、すっと目を逸らした。
「…たいした理由じゃない。」
今、かわされた。
そう思って、悔しくなった。
「なんで、だったんですか?」
私はもう一度、はっきり聞いた。
先生は驚いた顔で、でも私を真っすぐ見た。
さっきとは違う、沈黙が続く。