恋なんて知らない-4
「………。」
「?」
けれども、先生はやっぱり私を見ているだけで何も言わない。
私もそのまま何も言わずにいたので、しばらくの間その状態が続いた。
「…………はぁ。」
先生が大きくため息をついて頬杖をつき、私は首を傾げた。
「畑本。」
「はい。」
「お前、やっぱりわざとだろ。」
「え?」
私、何かしたかな?
「俺は別にかまわない。だけどな、どうも腑に落ちない。」
「何がですか?」
「これ。」
先生は教科書の今まで解説していた問題を指差した。
「この問題、本当は分かってるんだろ。」
何言ってるんですか。
そんなわけないじゃないですか。
すぐにそう言えば良かったのだけど、私は口を小さく開けた間抜けな顔で黙ってしまった。
なんで分かったんだろう?
そう、思ったから。
私は、嘘なんてつけない、というような善良で正直な人間では決してない。
現に、先生を騙していた。
けれども私は、残念ながら咄嗟に嘘をつける程頭の回転の早い人間でもなかった。
「あー…えっと。」
焦りはないが、つい不自然に上を見る。
先生はため息をつく。
「やっぱりな。」
「いえ、あのー。」
「いいんだよ別に、畑本が嘘をついていようがいまいがな。
ただ、腑に落ちないんだよ。」
「はあ。」
私はぼんやりと返事をする。
頭の中では、なんで分かったのか、という疑問がまだふわふわ浮かんでいた。