手ほどき-1
最近のあなたったら、すっかり黒光りして素敵になったわ。
カチカチなだけの、青い時期を卒業して、やっと食べ頃になったのね。
これでこそ待った甲斐があるというもの。
今のあなたったら、固過ぎず…、柔らか過ぎず…、ちょうどよい加減。
あなたを食べる前には、先端を指で“ぷちゅ”と押して、弾力を確かめるの。
程よく指先が沈むくらいが………OKいいわ!
そうしたら、あとはゆっくりと、優しく全体を揉み解していくのよ。
あなたを食べる前に、他の人がどうしているかはわからないけど、これが私のやり方…そうね、言わば儀式みたいなものかしら?
もうっ…あなたったら焦らないで!
ほらっ、いよいよ皮を剥いてあげるから…
私は今までも、あなたの仲間をたくさん相手にしてきたわ。
中には少し長めのや太めのもあったりして…
だから、そこいらへんの人よりも、ずっと私は経験豊富なのよ。
心配はいらないわ。
私がおいしく食べて…
あ・げ・る。
あなたを両手でしっかりと持って…と。
そうしたらゆっくりと…
決して爪を立てないように、あなたの皮を上から下に、丁寧に丁寧に剥いていくの。
ダメダメ!動いちゃだめよ!中のタマタマが、まわりの果肉に傷を付けちゃうから、今はいい子にして!
ほらっ見て!
そうこうしているうちに、皮がスルスル剥けて、青臭い果肉が顔を覗かせてる。
滑らかで溶ろけそうで艶々しているわ。
う〜ん、たまらなくおいしそうで、よだれが出ちゃうぅ〜。
今のあなた…
間違いなく、正真正銘の食べ頃よ。
(あっ…念のため言っとくけどバナナじゃないわよ!嫌だぁ、そんなに怒らないで…念のためって言ったじゃない!)
ヌラヌラとその体をテカらせ、私を誘うあなたに、さっそく唇を付けたいところだけど、実はここからが肝心なの。
もっとおいしくあなたを食べる為に、下準備をしなくては…
え〜〜〜っと…
お箸お箸っ!
それと〜お醤油ね…
そうそう…もちろんワサビも忘れずにっと!
それでは…
いっただっきま〜〜す。
んん――っ…
うっま〜〜〜いっ!!!
あなたの名前はアボカド…
それは私の大好物!!