『It's A Wonderful World 4 』 -1
雨が降っていた。
夜と見間違えるほどの曇天。
陰鬱な気分。
教室に立ち込める鬱陶しい湿気。
気分が天候に左右される。
それなのに。
ふと窓際に視線を移せば、胸が躍る。
彼女は物静かに本を読んでいた。
厚い装填の本。
何の本なのだろう。
恐らく、自分とは一生縁のない本。
僕が読んでも、1ページも理解できないだろう。
それでも、彼女は理解できるのだ。
自分と彼女の住む世界。
僕たちの目に映る世界は。
一体どれほど違うのだろう。
「何を思いふけっているんだい? ボーイ」
手に顎を乗せて物思いに耽っていたら、頭上からそんな声が聞こえた。
「色々と台無しだ」
顎に手をついたまま、頭上に白い目を向ける。
ニヤニヤと笑っているトゲトゲ頭の男。
「まあまあ。どこ見てるのかバレバレだったぜ?」
その言葉に、顔にかーっと熱が昇る。
「そ、外を見ていた」
「仁美さんは、相変わらず、なんというか、別世界というか」
僕の必死の言い訳を無視して、マサキは仁美さんに無遠慮な目線を送る。
「見るな! 穢れた瞳で彼女を見るな! その狂喜に冒された瞳で!」
「俺はアレか。性犯罪者か」
マサキは僕を見て、ニヤリと笑う。
「お前が彼女を見て、何を考えていたのか当ててやろうか」
「いいから。ホントそういうのいいから」
またか。
また僕は仁美さんに惚れてることで、このザクの肩の部分みたいな頭した男にイジられるのか。
ザクの肩以下の僕は何だ。
ガンダムのザコキャラであるザクの肩の部分にも劣る僕。
生ゴミで例えるなら、生ゴミの中にある魚の骨以下だ。
流しの排水溝にたまるヌメリみたいなものだ。
除菌ドメストとかに退治されればいいんだ。
僕なんて。
僕なんて。
「シュンッ!」
「いたいっ!」
突然の打撃。
痛む頬。
「また負のスパイラルに陥りやがって!!!」
「なんでわかった!」
僕を殴り飛ばしたマサキが怒っていた。
ていうか、なぜ僕の考えていることがわかるのか。
「そ、そりゃあ、オマエのことなら、なんだって……ごにょごにょ」
「帰れ」
頬を赤らめてうつむくマサキ。
早く自分のクラスに帰って欲しい。
今ならお金払ったっていいかもしれない。
千円あげるから帰ってください、みたいな。