『It's A Wonderful World 4 』 -8
「ははは。全く、シュンは意気地がないなー」
突然、陽気に笑い出す父親。
「え、お父さん?」
「ふふふ。冗談だよ、冗談」
「え!?」
「だから、冗談だって。父さんこないだのG1でひと山当ててなー」
そう言いながら父は、分厚く膨れ上がったサイフをぼんとテーブルの上に置いた。
「あれ、おサイフ……?」
「ははは。どうだ、父さんのギャグは笑えるだろー」
何もなかったように、朗らかに笑う父を見て、僕は呆けていたんだ。
極度の恐怖から解放された安心感から。
そして、物事が飲み込めるようになって、僕は初めて。
「このクサレオヤジが!!!!!」
グレたんだ。
人間には絶対についちゃいけないウソっていうものがあるんだ。
「……ほんとにアイツはダメな親父だ」
僕は遠い目をして、そう呟く。
あれは暫くトラウマになった。
いや、アレだけじゃない。
あいつは昔からロクでもない嘘ばっかりつくんだ。
「シュンよ、今日、父さん会社クビになったんだ。今、不景気だからな……。悪いが学校を辞めて、明日から父の代わりに働いてくれ」
「ととととと父さん!? わかったよ、僕学校辞めて新聞配達とかするよ!」
次の日、ひどく欝な気持ちで求人広告を眺めていた僕に、父は言った。
「あれは、冗談だ」
「シュンよ、今だから言うが、お前の母さんは別にいるんだ。本当の母は、ナターシャというロシア人でな。今そのナターシャが危篤なんだ。会いに行ってあげなさい」
「ととととと父さん!? 僕、ロシア人の血入ってたの!? 全然気づかなかったけど、わかった! 明日会いに行くよ!」
翌日、偽りの母にロシアに行くためにパスポートを取らせてくれと必死に懇願していた僕に、父は言った。
「あれは、冗談だ」
窓の外を見ながら、僕は思う。
あのクソ親父、と。
なぜだろう。
怒りがふつふつと湧き上がってくる。
あいつを信用しちゃいけない。
そんなことわかってるんだ。
こないだだって……。