『It's A Wonderful World 4 』 -3
「えっ!?」
彼女が。
「マジか」
僕を見ている。
その瞬間、辺りの景色が飛んだ。
世界には、僕と彼女の二人しかいなくて。
音楽が、流れ出す。
彩りが、あふれ出す。
大きな彼女の瞳に、自分の姿が映っているのを感じながら。
僕は、なぜか考えたんだ。
なぜ彼女が僕を見てくれたかって。
でも、答えは簡単。
僕が、ほんの少し努力を――。
「じゃなくて、教室のど真ん中で仁美さん仁美さん連呼してるからだああああああ!」
頭を抱えて叫んだ。
つうか、努力とかしてないし。
アホなのか、僕は。
いや、もはやアホとかそういうレベルじゃないかもしれない。
脳の欠損だ。
僕の頭に詰まっているのは、脳みそじゃない、カレー粉とかかもしれない。
あああああ。
あばばばば。
「シュンよ」
マサキが僕を呼ぶ。
「このカレー粉に何の用だ」
「また妙な妄想を……」
気を取り直して、マサキは僕を見据える。
そして、二カッと笑ったと思ったら、親指で仁美さんを指した。
チャンスだぜ、とでも言いたげに。
「ああ……」
僕は眩暈を感じた。
このトンガリゴリラはバカか、と。
なんて気まずい空気を作り出すのか、と。
プラズマクラスターを見習え、と。
「どうかしたの?」
突如会話に割り込む綺麗な声。
事態はパンデミックに推移したようだ。
振り返れば、小首をかわいらしく曲げる仁美さんの姿があって。
「私に何か用?」
心臓が止まった。
頭がバーストした。
「な、なんでもにゃい」
ギリギリ人間の言葉を話すのがやっとだった。