ENDS-5
「じゃあ、見てて」
どうぞ、と有介に振れば「はいよー」と有介は壁に肘ぐらいまで腕を突っ込みました。
「さすが…!」
タマさんが感嘆の声を上げます。
朝希はそんなタマさんの頭を鷲掴みにすると、たった今有介の腕が抜けた場所に押し付けました。
「イダダダダッッ!」
「ふーん」
タマさんの頭を無表情で離すと、朝希は私たちの方へ向き直りました。
「有り得ない」
朝希の言葉が体に刺さったようでした。
朝希には分かって欲しかったのに。だって有介は私の…
「と思ってたけど、信じる」
え?
朝希の言葉を理解するのに時間がかかりました。
顔を上げた私は、きっとひどく間抜けな顔をしていたに違いありません。
「プッ、何その顔。こんだけ見せられりゃあね、信じない訳にはいかないでしょ」
朝希は笑っていました。
つまりそれは、朝希が有介の存在を認めてくれたってことですよね。
「…あ、良か…良かった…!」
ぶわあっと波が押し寄せたようでした。
一気に視界がぼやけたかと思った刹那、私の目からは滝のように涙が流れ落ちていました。
「ほ、ホント、よがっだですね、ユーズゲー…!」
「アッハハハ、もう何言ってるか全然分かんねーよ」
有介は片手で私の頭を撫でながら、もう片手で目元を拭ってくれています。
「あーあーもう。すぐ泣く。てかあんたも泣くな」
「グスッ。良かったね、姫代さんんん!」
朝希が手近にあったティッシュを私とタマさんに差し出しました。
良かった。有介はここにいるんだ。
私だけじゃない。たとえ幽霊だとしても、有介の存在は認められたんだ。
そう思うと嬉しくて、口元が緩みました。
ひとしきり泣いて、泣きじゃくった私には、もう幸せしか残っていません。
あとそれともう一つ。
「落ち着いた?姫代にお願いがあるんだけど」
朝希がいたずらっ子のように笑いました。
「お腹、空いた」
私も思ってました。残ったものは空腹感。
お昼を食べていないことに気付いた瞬間、急にお腹がグゥグゥ言い出しました。
「うん!私、何か作ってくるよ!」
「俺も手伝うっ」
「お前はここにいな」
立ち上がろうとしたタマさんは、朝希に裾を引っ張られその場に崩れ落ちました。
一応二人はお客様なので仕事をさせる訳にはいきません。
「適当に作ってくるから。ちょっと待っててね!」
「いってらっしゃい♪」
有介がふわふわとゆっくり手を振っていました。