ENDS-10
「うん。もうね、壁とかスッて出来ないから」
「ホントにホントですか?もう、どこにも行かないですか?消えちゃわないですか?」
姫代は必死にオバケの裾を引っ張る。そんな姫代が愛しくてたまらないようにオバケは頭を撫でながら
「うん」
と頷いた。
「それにほら、骨折れてるし。怪我って生身だからだと思わない?」
オバケがニッと笑う。姫代はつられたのかクスリと笑った。
そして鼻をすすって
「そうですね」
と笑った。
「ここ、職場だってこと忘れないでくれる?」
そろそろ私が入り込んでもいいだろう。
「いちゃつくのは家でやりな」
「エヘヘ〜ごめん、朝希」
「ごめ〜ん」
全く、こいつらは何なんだ。
柄にもなく二人に一生懸命になっちゃったじゃん。あの貴重な一日を返して欲しい。
何だか急に疲れた。
「あ、朝希ちゃん。今のオレなら姫代と一緒いてもいい?」
オバケの挑発的な言い方も、今は何とも思わない。
「いいよ」
私も笑ってみせた。これは本当。
あとからウダウダは言いませんよ、疲れたし。
姫代は気にしない性格だけど私は違う。
どうしてオバケが死にかけたのか気になって、お昼休みに調べてみた。
『柏木 有介』で調べたら、ある新聞記事と数件のサイトがヒットした。
隣の県で4ヶ月前に大学生がビルの屋上から投身自殺をしたらしい。
身元は免許証から柏木 有介(22)だと判明。
彼は5階から飛び降りたもののビルの下に生えていた芝生がクッションとなり、命だけは助かったが意識不明の重態だと言う。
彼には兄がおり、優秀な医者だそうだ。
そして両親はその兄と比べてやや劣る弟を常に厳しく育てた。
彼のやりたいことはさせてもらえず、意見すら聞いてもらえない。
その大学の医学部にも有無を言わさず、無理矢理通わされたらしい。
常に兄と比べられることに疲れ自分を見失った彼は、自分の存在意義を感じられず自殺した。
新聞記事といくつかのサイトの内容を組み合わせるとこんな感じだ。
へーえ、なるほどね。
オバケは幽霊になるずっと前から自分の存在を認めて欲しかったんだ。
半端な幽霊だったから、みんなに見えたり、触れたり出来たのかもしれない。
でも、もしずっとあのまま姫代と一緒だったらその内肉体の方が限界を迎えるんじゃ…。
もしかして、結果的に私いい仕事したんじゃない?
私はパタンとパソコンを閉じた。
世の中ほんと、訳が分からない。何が事実で何が現実か、意外とボーダーラインは曖昧なのかも…。
少なくとも、オバケと奇跡と幸せそうな二人のことは信じてあげよう。
今日はタマに教えなきゃいけないことがいっぱいある。
姫代とオバケのお祝いパーティーの計画でも立てよっと!
《ENDS》