『私の咎』-1
平日のスーパーはお昼を過ぎたころから人が少なくなる。
夕食の買い物にはやや時間があり、日用品を買うのなら特売日を待つのがお財布に
やさしい。
時計は午後二時を指す時刻。
普段なら客足の少ない間なのだが……、
「ちょっと、このチラシと値段違うじゃない」
「すみません、返金いたします」
「これ、なんかつぶれてるんだけど、入れ方が悪いんじゃない?」
「申し訳ございません。ただいまお取替えいたします」
レジの一角では客溜まりができており、店員が平謝りを繰り返していた。
ACマートに勤める早川奈津美は今日で半年を数える。けれど、もともとののんびりした性格が災いしてか、レジカウンター業務を上手くこなすことができなかった。
「早川さん、それじゃ困るよ……」
「すみません、すみません」
そして店長にも平謝り。
新任の店長、岩村義人は「しっかりしてくれよ」と言い残して陳列作業に戻る。
奈津美は落ち込む暇もなく、次のお客に愛想笑い。今度はたいした間違いもなく、お釣りを返していたが……。
「店長、結構きびしいよね」
最近入ったばかりの桑原久美子は、同じく棚にお菓子の袋を陳列している一回り年上の三枝頼子に話かける。
「そんなことないよ、私がミスしたときはそんな怖くなかったし」
「そう?」
ふと考え込む久美子だが、確かに自分もそう怒られた記憶が無い。ただ、別に気になることはあるのだが。
「……っていうか、早川さんにだけみたい」
スーパーの古株にして事情通の頼子は表面上つまらなそうにしながらも、話したがっているのか、ちらちらと視線をよこす。
「なんで?」
今はそんなに忙しい時間でもなく、彼女の下世話な世間話は久美子の好物のひとつ。
断るべくもなく、水を向ける。
「だって、彼女……」
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スーパーのパートが終わったら、次はファミリーレストランでの仕事が待っている。
年金、社会保険、住民税、家賃、電気、ガス、水道、電話……。
そして、養育費に慰謝料。
三十を回った女。特にめだった職歴もなく、資格もない奈津美がそれらをまかなうには、朝から晩まで働く以外になかった。
――はぁ、今日も遅くなっちゃった。
家に帰るのはいつも日付が変わる直前。
一日の稼ぎは計算機を何度叩いても一万五百円。
毎日働けるのであればまだしも、シフトの都合上、週に四日程度。
最近になり預貯金ができるようになったものの、それらは愛しい我が子のためにと、指定の口座に振り込んでしまう。
――秋雄……、元気でいるかしら?
最愛の我が子と気さくに笑う男性。
――ふふ、貴方ったらどこか子供っぽいよね。
出会ったころは年上にも関わらず、同い年にすら見えた夫。
当時のことは今でもしっかりと覚えている。