『私の咎』-7
*
張り切って臨んだ面接は、スーパーの事務所で店長の渡辺博と二人きりで行われた。
「えと、島本さん、息子さんはいいの?」
自己紹介、志望動機もそこそこに、博は家族欄を指差す。
「スーパーってさ、祝祭日が忙しくて平日は暇なんですよ。意外と。で、お子さんが小さいと急に熱が出たとかで休まれたりすると困るんですよね」
「はあ、そうですか」
「ほら、まだ島本さん若いし、子供も小さいんじゃないですか?」
若いといわれると悪い気もしない。けれど、目の前の男は彼女よりおそらく年下。
いかつい眼鏡を掛けているが、肌に張りがあり、どこか幼い顔立ちをしている。
「いえ、もう小学校五年生ですし、自分ひとりで病院にいくぐらいは……」
「へえ、大きいんですね。あ、ホントだ」
何をみて納得したのかは敢えて聞かない。
ただ、気になったのが、その後の面接のときに感じた視線。
しゃべり方や表情を見ているというよりも、別の何かを品定めしているようにも見える。
「それで、息子の進学費用の足しにと思いまして……」
「そうですか、ちなみに平日をご希望ですか?」
「え、まあ、そのほうが家庭もありますし」
「はい、わかりました……」
胸元、脚、腰周り。
痛いというほどでもないが、視線が刺さった気がした。
――そんな馬鹿なこと。もっと若い子いるのに、何気にしてるの? 私。
「それじゃ、今日は以上です。結果はそのうちに連絡いたします」
「はい、よろしくお願いします」
奈津美は丁寧にお辞儀をしたあと、事務所を出ようとする……が、
「奈津美さん、こちらこそ、よろしくお願いしますね」
ぽんと両肩を叩く博の手。
触れた後も少し、体温を感じた。
「は、はい」
違和感を覚えるも、期待できる言葉と好意的に解釈し、奈津美は出口に向かった。
*
最初の仕事は品だし。滑車一杯にダンボールを積んで倉庫と店内を往復すること数時間。
家事よりもはるかに厳しい肉体労働に、奈津美は休憩時間に疲れた溜息をはく。
「どうですか、島本さん疲れました?」
同じく休憩中の博が賞味期限ぎりぎりのペットボトルを差し出してくれたので、それを受け取る。
「ありがとうございます。やっぱり久しぶりですからね……」
「でも島本さんもお仕事をなさっていたのでしょ? すぐになれますよ」
「ええ、でも前の仕事は受付だけでしたし……」
「そうですね。レジのほうをお願いしたいのですが、あいにく人の都合がつかなくて」
笑いながら頭をかく博に奈津美もつられて笑う。
昔の夫を思い出す幼い笑顔。
少し、彼に親しみを覚えていた……。
「そういえば……」
「……まぁ、そうなんですか……」
「ただ、少し前に……」
「へぇ、知りませんでした……」
他愛のない話を休憩時間一杯したあと、奈津美はお茶を飲み干し、頬を叩いて気合を入れ、残りの仕事に向かった……。