『私の咎』-31
『あんあんあん、いい、いいの、いく、いくのぉ!』
はしたない声ではしゃぐ自分に赤面しつつも、なぜこれが英明を押しとどめていたのかは疑問。
「わかったかい?」と言いたげな表情の英明に正直困ってしまう。ようやく気付いた英明は「あ、わわ、ごめん、そこじゃないんだ」と操作する。
『もう、これっきりにしてください。私には夫も子供もいるんですから……』
行為の終わったあとの、いつもの台詞。
あのときの気持ちを冷静に見つめなおせば、これほどうすら寒い台詞もない。
「君は脅されていた。そうでしょ?」
「あなた……」
「なあ、そういってくれ……、僕らまだ、やり直せないか? なあ……」
起き上がった彼は一週間ほどの休養のせいか衰えを見せるも、彼女の腕をとり、すがるように言う。
「ごめんなさい……、わたしは……私にそんな資格ない」
「どうして? 僕はまだ君を愛してるし、そりゃたしかにすぐに忘れたり、受け入れることなんてできないと思う。けど、君が……、君を失うなんて……そんな残酷なこと……、どうして君は僕を、さらに……傷つけるのさ……」
堪えられず泣き出す彼を抱きしめ、そのまま頭を撫でてあげる。
おそらくは、きっとこの気持ちを抱いたから。
だからこそ、自分を赦せないでいた……。
*
――さて、明日も早いんだし、もう寝ないと……。
時計が十一時を迎えた頃、奈津美は写真たてをちゃぶ台から本棚にもどした。
レトルトのスパゲティを食べ終えたら片付けもそこそこにシャワーを浴びる。
本当は湯船にしっかり浸かりたいのだが、気持ちの上でそれもできない。
ストイックに生活したところで償いになるはずもない。
けれど、たとえ些細なことでも幸せを感じることを咎める気持ちが強い。
せめて息子と夫の幸せを想うぐらい。
それぐらいの欺瞞は赦して欲しいと願いつつ……、
奈津美は目を閉じた……。
完