『私の咎』-28
「だ、だめぇ……、激しすぎ……、博さん、こんな、すご、だって! あぁん……あなた、ごめんなさい……、わたし……わたし、また……またいってしまいま
すぅぅ!!」
シーツをきゅっと掴み、脇もしめる。
「うぅ、奈津美さん、しめすぎ!!」
「いや、お願い、外に出して!」
最後の倫理感を振り絞って彼から逃れるも、勢いよく空中に吐き出された白い液体は放物線を描いて……、
――あ、手に……、かかった……。
彼女の左手の薬指を汚すそれは、いみじくも性を縛るリングに見えたかもしれない。
「奈津美さん、もう一度……、いいでしょ?」
「……これを、本当に最後にシテクレルなら……」
ぼんやりした目で淫らなリングを見つめる奈津美の身体に、再び甘い振動が訪れると彼女は「ふぅん」と呻いていた……。
*
違和感を覚えたのは夫の靴があったから。
そして、息子の靴がなかったから。
室内全体が暗く、けれど人の気配はした。
「……ふー……、……はぁ……」
気が立った猫のような声とため息。
それはどちらも夫の声。
はやる気持ちを抑えながら、奈津美は居間へと向かう。
ソファには英明がおり、アルコールの臭いがぷんとした。
いつもなら缶ビールか発泡酒なのに、居間テーブルの上にあるのはウイスキーと氷。
「あなた? 帰ってたの?」
出張が終わるのはもう少し先のこと。けれど、今そこにいるのは間違いなく夫。
電気を点けようにもライトのほうで消えているらしく、スイッチを押しても反応がない。
「ああ……、思ったより早く終わってさ……」
「そう、よかったわ。やっぱり秋雄と私だけだと寂しいし」
紐を引いてようやく明かりがつく。
「ああ……」
「ねえ、秋雄はどこ?」
「さあ?」
「さあって……、ちょっとねえあなた? どうしたっていうの?」
「どうしたもこうしたも! 君が一番よくしってるじゃないか!」
抑揚のない夫の答えにいらだった奈津美は声を荒げるが、それは怒りの表情の英明に打ち消される。
彼は泣いていた。
赤くなった目を吊り上げ、鼻水、涎をたらしながら、歯を食いしばり、両腕、両手を小刻みに震わせながら、それでもまだ我慢が出来るらしく、また座った。
テーブルの上には見覚えのある緑のレコーダー。
そして、探していた銀色のリング。
「ねえあなた聞いて……お願い、これには理由があるの……」
彼の豹変を理解できた奈津美は彼の隣に座り、その腕を取る。
しかし、彼はそれを乱暴に振りほどき、ウイスキーをグラスに注ぐ。