『私の咎』-26
「そんな……」
その視線に耐えるのは辛い。
けれど、なににどう辛いのかは……、理解したくない。
「しょうがないなぁ……。それじゃあ今日一緒にいきましょうか?」
「いえ、それは……」
「だって、僕一人でホテルにいっても分からないじゃないですか?」
「それはそうですけど、でも私には夫と子供がいます。だから、もう……」
「ええ、それなら一緒にいくだけで……」
「……行くだけなら……」
笑顔の先にあるのは果たして……?
*
『はい、どういたしました?』
無人カウンターに設置されていたインターホンを押すと、若作りしたおばさんの声が聞こえてきた。
「あの、忘れ物がなかったか……」
『はい、何号室ですか?』
「えっと……、七〇五号室です」
『少々お待ちください……。えっと、忘れ物忘れ物……、ね、この前のさ』
しばらく音声が乱れたあと、音の割れたメロディが流れる。
「そんなの、買ってあげるよ……、だからさ……」
焦る気持ちの強い奈津美と、それに付け入ろうと囁く博。
二人でいるときは、車を出る前に必ず香水をつける。
石鹸のような香りが最初にする。そして、甘くなく、ミントのような鼻にすぅっと入ってくる香り。
「卑怯です。そんなこと……」
「だって、さ……。これが最後なんだもん……」
――え!?
寂しげに呟く博のそれは、これまでの騙す素振りが感じられなかったが……?
*
「本当に……、これで最後にしてくれるんですか?」
いつもの部屋、いつものヤリトリ。
けれど、この日は違っていた。
「うん。奈津美さん、全然堕ちないんだもん。なんか張り合いがなくってさ」
博はそういいながらネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐ。ズボンのベルトはいつも奈津美に外してもらっている彼だが、今日は何か急いでいるようで、カチャカチャと外す。
「ね、最後なんだから、思い切りしてもいいでしょ……。さ、奈津美さんも脱いで脱いで」
「え……、あ……、はい」
言われるままに春色のタートルネックのセーターを脱ぐ。
最近買ったばかりの薄緑のブラはショーツとセットで買ったもの。
――これが最後なら……、最後なんだからいいはずよ。だって……、そうよ、最後なんだから……。
最後。
何度となく望んでいていながら、いざそれを耳にして訪れる不可思議な気持ち。
――なんか、博さん、急いでる?
その原因は博の浮ついた素振りを訝しんでのことと言い聞かせて。