『私の咎』-23
*
「あの、レコーダーのことなんですけど……」
お風呂から上がり髪が乾いたところで、奈津美は切り出した。
「え? ああ、はい、ちゃんと処分しておきますよ……」
博はベッドにうつぶせになりながら雑誌を読んでおり、彼女の申し出にも振り向かずに答える。
「また録音してたりしませんよね……」
「さあ、どうだろうね」
「店長……」
「だって、奈津美ママと別れたくないし、それに奈津美さんだって……ね?」
「そんなこと……ありません……」
本当のところ、どうなのだろうか?
今日の二回目。
逃げるそぶりもみせず、彼の求めに応じ、受け入れてしまった。
もちろん彼が風呂を上がったと同時に膣にシャワーを当てて中指でほじくるようにして洗った。
膣内射精をされたとき、拒めたのだろうか?
風呂場のような足場のもろいところで暴れては危険。
そして、相手の機嫌を損ねるのも同じく不利益。
だからしょうがないことなのだ……、
はたしてそう言えるのだろうか?
もし本当に博の行為を拒む気持ちがあるのなら、
夫や息子が大切なら、
こんな不適切な関係など……、
――……そんなこと、だって私は脅迫されて仕方なく……。
理由が言い訳になり、詭弁に変わるうちに、奈津美は立っていることも出来なくなり、うずくまり、それでも泣き出すのを堪えていた。
「奈津美さん?」
「店長、お願いします、もうこんなこと、これっきりに……これっきりにしてください……」
堪える気持ちで上擦る声。
性欲と理性の狭間で揺れる気持ちを振り切り、言い終えると、博は「ふぅ」と短くため息をついたあと、去っていった……。
*
いつものように夫と子供を送り出し、パートに向かう。
断るべき。
自分には愛する夫と子供がいる。
それを裏切ることなどできない。
そう強く意識して職場へ向う。
けれど……、
『ぁ、ぁ、だめぇ……、わたしぃ、ぃ……っちゃ……ぃます……』
にやけた顔で緑のレコーダーを操作する博。
涼しい風の吹くホテルの一室、カラフルな照明を背に受ける彼は淫猥な悪魔に見えた。
「あ……あ……」
安いソープの香りを漂わせるバスローブ姿の奈津美は、迫り来る脅迫を装う誘惑に身じろぐことをしなかった。