投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『Summer Night's Dream』
【青春 恋愛小説】

『Summer Night's Dream』の最初へ 『Summer Night's Dream』 32 『Summer Night's Dream』 34 『Summer Night's Dream』の最後へ

『Summer Night's Dream』その5-6

私鉄前丘駅には巨大なバスターミナルがあり、青銅色のバスが一日に何十台と通過していく。
昼前に駅についた陽介と孝文、それを待っていたさくらの三人でまずどこかで昼食を取ることにした。
いきなり孝文が適当なファーストフード店に入ろうとしたので肩を掴んで止めた。


「どうしたよ?変な顔して」


「バカっ。さくらがこんな所でメシ食うと思うか!?」


駅ビルの二階に飲食店の並んでいる一角があり、リーズナブルな価格が売りの高校生に優しい店だったが、さくらは普通の高校生ではない。


「あん?じゃあお前金持ってんのかよ」


至極真っ当な反論を返されて、陽介はたじろいだ。


「いや、持ってないけど……。ここはヤバいだろ。せめて寿司とかさあ」


「回転すしでいいのか?」


頭の回らない男が見当違いのことを言った。


「どうしたの?私、ここでいいよ」


間に割って入ってきたさくらが陽介にそう言った。
彼女は店の看板を子供のように澄んだ目で見ていた。


「ねえ、早く入ろうよ」


二人の腕を掴んでズンズン中に入っていく。

さくらが率先してカウンターでポテトとハンバーガーのセットを三人分頼んで、窓側の席に移動した。
向かいに腰掛けてポテトを頬張るさくらは、今日もウチの制服を着ていて、どう見ても普通の高校生だった。
結局、心配するだけ無駄だったらしい。


「ねえねえ、何で今日は制服なの?」


横に座っていた孝文がさくらに聞いた。
誰に対してもストレートに物を言うこいつの性格は、こういう所で真価を発揮する。


「え?変かな?」


「いや、変じゃないよ。すげー似合ってるって。たださ、今日って休日じゃん。なんか用事でもあったわけ?」


コーラにストローを差して、孝文が言った。


「あ、その……そういうんじゃなくてね」


少し恥ずかしそうに俯いて、さくらが言い淀んだ。


「制服着てると、ほら。安くなるから……」


とさくらが小さく呟いた。
この町の私鉄は全て、制服で乗ると学生割引が利く。バスや電車を使って登校する生徒が多いのだが、わざわざ定期を買う必要を減らすため、市の条例で決められてることだ。
とは言っても、遊びたい盛りの高校生だ。交通費が安くなるからと言って休日にまで制服で出掛けるという物好きはいない。


『Summer Night's Dream』の最初へ 『Summer Night's Dream』 32 『Summer Night's Dream』 34 『Summer Night's Dream』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前