『Summer Night's Dream』その5-5
「お前も食べるか」
「食べる」
半分に割って渡してやると、孝文はもそもそと食べ始めた。
「なあ陽介、一つ聞いていいか?」
「うん?」
「俺はどうして、お前の家に来たんだろう?」
「知らねえよ、そんな事」
窓の外ではまだ犬が吠えている。
遠くから聞こえてくる虫の声と競うように、いつまでも鳴き続けていた。
その日の内に、さくらから連絡があった。
何かあったらすぐに電話するようにと、昨夜彼女に番号を教えていたのだ。
受話器越しのさくらの声は落ち着いていた。
今どこにいるんだ、と陽介が聞くと駅前のバスターミナルで待っていると返ってきた。
どうやら向こうも、最初から会うつもりでかけてきたらしい。
自宅で孝文とゲームに興じていた陽介は、電話を切ると出掛ける準備をした。
ゲームに集中してた孝文が画面から目を離さずに言った。
「さくらちゃんからか?」
「ああ」
「俺も行くよ。ちょっと待ってろ」
今キリのいいところだから、とコントローラーから手を離さずに言った。
ゲーム止めろよ。
「何の用だろーな、一体」
「さあ、行けば分かるだろ」
おそらく何か進展があったのだろう。
昨夜の錯覚じみた光景が、こんなところで終わるわけがないのだと陽介に告げているような気がした。
そんなことをおぼろげに考えながら、陽介達は待ち合わせ場所に向かった。