ピリオド 後編-1
あの日から2週間、亜紀は連日のように泊まりに訪れた。
過去、オレによって受けた傷に対する本音を吐き出したのに、普通なら2度と現れないハズなのに、平気な顔してアパートに訪れる。
「ほら、もっと食べなきゃ。そんなじゃ体力持たないわよ」
「ん…ああ」
いつもと変わらぬ亜紀の姿に、オレの方は戸惑ってしまう。
何を考えてんだ?
「後片付けはいいから。先にお風呂に行って」
「分かったよ…」
朝から洗濯や布団干し、夜は夕食の準備をして待っててくれる。そんな、かいがいしい世話を焼いてくれるのだが、その度に気持ちは落ち込んでしまう。
何が目的なんだ?と、うがった心で見てしまうし、なにより顔を合わせるのが辛い。
「姉さん、何でオレの世話をしに来るんだよ?」
そして今日、オレは思い切って訊いてみた。抑え切れない、どうしても確かめたかった。
すると、亜紀の口からは意外な答えが返ってきた。
「別にたいした理由はないの。強いて上げれば、“仕方のない弟”が放っとけないのよね」
そう云うと微笑みかけた。
どうせ、そんなモノはごまかしだ。
「でもさ、オレは姉さんを傷付けてしまったんだろう。
だったら、此処に来ないほうが…」
「そんな終わったことは良いじゃない」
亜紀は、ひとつため息を吐くと言葉を続けた。
「あれはあの日で終わったの。それにね、アンタは勘違いしてるわ」
「えっ…?」
オレには意味が解らない。
「姉さん、それってどういう…」
問い質そうとすると、亜紀は笑ってごまかすように、
「今に解るから。それまで考えてなさい」
「何を行ってるのさッ、ちゃんと答えてくれよ」
さらに突っ込んで訊くと、亜紀は口許を結んで上目遣いで“ン〜ッ”と考えてから、
「じゃあヒント。この間、わたしが云ったことは憶えてる?」
「…ああ、だいたいの内容は…」
「それを思い出してよ。その中に答えはあるから」
そう締めくくって笑顔を返す。オレには益々、云ってる意味が解らなかったが、これ以上詮索してもムダな雰囲気なので訊くのを止めた。
「そんなことよりもさ、他に云うことは無いの?」
テーブルに頬杖をつき、小首を傾げて“ン?”という顔でこちらを見ている。
(えっ?何のことだ…)
オレは精一杯に考えたが、答えを導き出せない。
「何か…あるのかな?」
「アンタねえッ、わたしに云うべきことが有るでしょうッ?」
と、詰め寄ってくるが、何を云えば良いのか頭に浮かばない。
すると、とうとう業を煮やした亜紀はテーブルをひとつ叩いた。