ピリオド 後編-9
「…もういいから、出せ」
「はい…」
オレのぶっきらぼうな口調に吉川は小さく頷いて、クルマを発進させた。
頭の中には亜紀の夫、竹内の顔が浮かぶ。会ったのは3度だけ。結婚式の時と、その前後に1回づつ。
家業を継ごうとする者が持つ強い志と、亜紀を口説き落とした優しさを併せ持つ人物だとオレには映った。
――彼なら亜紀を幸せにしてくれる。
そう思っていたからこそ、この離婚は納得いかない。何故、ここまで絡まってしまったのか。
(オレにも、少しは知る権利はあるだろう)
そう考えてるうち、オレは助手席で眠ってしまった。
夜。仕事を終えたオレは、竹内の自宅近くにあるスナックを訪れた。
「やあ、和哉君すまないね」
遅れて現れた義兄は、以前より痩せて見えた。
「いえ。義兄(にい)さんには無理云って、此処に来てもらってますから」
「だったらどうする?ここで話すかい」
オレの電話を受けた時、竹内はその内容も解ってるようだっだ。
「わたしは構いませんが…」
「そうかい、じゃあボックスに行こう」
誘いに竹内は応えた。オレを見つめる目は、どこか笑っているように思える。
――こいつ、オレの話を聞いてもこんな顔してられんのか?
客足もまばらなスナックのボックス席。すぐにホステス達が側に寄ろうとしたが、
「すまない。オレはしばらく義弟(おとうと)と大事な話をする。だから向こうで待っててくれないか?
話が終われば、カウンターに戻るからさ」
優しい口調ながら有無を云わせぬ迫力がある。竹内の言葉にホステス達はカウンターの向こうに引っ込んだ。
「さあ、これでゆっくり話が出来る」
微笑みかける竹内を見て、自分の顔が引きつるのが分かる。
「亜紀…姉は義兄さんと離婚したがってます。でも、その理由を云わない。何故、こうなったんです?」
回りくどいことは無しだ。この際、ズバリ核心を突くのが得策だ。
「…そうか…あいつは何も云わんか」
竹内は小さく頷いた。