ピリオド 後編-8
その先は、あまり覚えていない。数杯、ストレートであおった後は、
「……情けねえや…」
そのまま眠ってしまった。
その夜、夢を見た。
互いが小学生で、近所の同学年生と一緒に遊んでいた頃。
いつも亜紀の後を付いて回っていた。ただ、ただ、大好きだったあの頃。
ひと見知りの強いオレを、社交的な亜紀は何処にでも連れて行ってくれた。
いつも笑顔だった2人。
――あの頃に戻りたい。
オレは夢の中で、かなわぬ願いをしていた。後戻りは出来ないのだ。
「ぐ…くう」
翌朝、携帯のアラームにオレは起こされた。
「くそ…やり過ぎたな…」
頭の浮遊感から、かなりの酒が残っているのが分かる。
「このままじゃ吉川にドヤされちまうな」
オレは、少しでもアルコールの臭いを消そうとシャワーを浴びた。
熱い水滴が、眠った思考を呼び覚ます。昨夜の出来事、夢、そしてこれから。
(とりあえず預かったけど、どうするかな…)
亜紀の離婚に端を発した問題。しかも本人は帰郷したきり多くを語らない。その原因さえも。
(…だったら…)
朧気な思考の中で、おおよその気持ちは固まった。
だったら、もうひとりの当事者である亜紀の夫に訊くしかない。
「それが手っ取り早いか…」
オレは手早く身支度を整えると、寝室に眠る亜紀を置いて部屋を出た。
「先輩、昨日、何かあったんですか?」
会社の駐車場。朝礼を終えて営業車に乗り込んだオレを、吉川は怪訝そうな顔で見つめていた。
「…いや、何も」
すぐに昨夜の出来事が頭をかすめた。が、オレは平静を装ってシラを切る。
そんなごまかしに吉川は敏感だ。
「自分じゃ、ごまかしてるつもりかも知れませんが、かなり酒臭いっすよ」
「ああ…昨日は昔の仲間と飲(や)ったからな。それでだろう」
普通ならそれで納得するのに、その日は違った。
「だったら良いんですけど…」
「何だ?まだ何か云いたそうだな」
「その…先輩の顔、辛そうです…」
俯き加減に見つめる吉川。その目が“すべてを悟っている”と云ってるように思えた。