ピリオド 後編-3
季節は、昼間でさえ肌寒い風の吹く時期を迎えた。
(今日も真っ暗か…)
いつの間にか、自分の部屋を仰ぎ見るようになっちまった。
亜紀が最後にアパートを訪れて、3週間が過ぎようとしていた。
1度暖かな生活を覚えると、以前はなんとも無かった“独り”が侘しく思えてしまう。
今日も暗く冷たい部屋が待っていると思っていた。
階段で3階に上り、部屋に通じる薄暗い通路に出ると、部屋の前に人影が見えた。
「…?」
近づくと、玄関ドアを背にして、ひざに顔を埋めて座ってる。
「姉さん…?」
オレの声に、亜紀はゆっくりと顔を上げた。
「…泊めてくれる?実家、出て来ちゃった」
そう云って、浮かべた力無い顔は哀れにさえ思えた。
「ほら立ってッ、中に入ろう」
手を掴むと異様に冷たい。かなり前から、ここで待っていたようだ。
「先にシャワー浴びて来なよ。その間に、ちょっと買い物に行って来るから」
オレはリビングのエアコンを入れると、亜紀を置いて部屋を出た。
アパートそばのコンビニで、必要なモノを買うために出向く。カップ麺やおでんなど、身体を温める食べ物を。
――あのままじゃ、風邪引いちまう。
買い物を済ませて急いで部屋に戻った。
ちょうど亜紀がバスルームから出てきていた。
「リビングが暖かいからさ、あっちで待っててよ。すぐにメシ作るから」
亜紀はオレの方を一瞥しただけで、何も云わずにリビングに消えた。
(あの落ち込みようだ。何か、よほどのことを云われたのだろう)
ちょうどその時、携帯が震えた。相手は母だ。
「和哉。亜紀はッ、亜紀はそこに来てるッ?」
焦燥した声。オレはリビングに気付かれないよう声を落とす。
「ああ、来てるよ。何かあったのか?」
「それがあの子…」
母の説明では、数日前から亜紀のダンナが実家に日参していたそうだ。
理由は復縁というか、戻って来てくれと。
父は元の鞘に収まるよう説得を試みた。が、亜紀は決して首を縦に振ろうとしなかったらしい。
そして今日、説得の途中で実家を飛び出した。
「なんとか、アンタの方からも…」
母の気持ちは解るが、それは無理だろう。
「とにかくさ。しばらくは預かるよ。今は何を云っても無駄だろうから」
オレの言葉に、母は嘆きの声を漏らした。