ピリオド 後編-2
「もうッ!アンタって子は。毎日世話してもらって、云うことは無いのッ」
「…ああ、ゴメン…毎日のように世話してくれて、感謝してるよ」
――そんなに云われても。頼んだワケでもないのに。
しかし亜紀は、そのひと言が欲しかったようだ。
「ヨシッ!そう思えばよろしいッ」
満足そうに頷くと、手にした2本目の缶ビールを傾ける。
「あのさあ、姉さん?」
「なあに?」
オレは気になったことが、もう1つあった。
「今みたいなこと、嫁いだ先でも云ってたのか?」
途端に亜紀の顔色が変わった。
「あそこで、そんなこと云えるわけ無いじゃないッ!」
口調が慌てている。こうなりゃ、最後まで訊いてみるか。
「姉さん…」
「今度は何よ?」
亜紀は2本目を飲み干した。
「むこうで、何があったの?」
途端に空気が変わった。それまで陽気だった顔は、かたく強張っている。
「やっぱり。何かあったんだね?」
「そんなこと無いわッ、アンタの勘違いよ」
ごまかそうとしても、その狼狽ぶりは明らかだ。
「勘違いじゃないよ。実家で会った日、オレはお袋から聞いてたんだ。
姉さんが、離婚するかもしれないって」
この際、云うべきだと思った。その後、オレに対する亜紀の扱いが変わっても、それは仕方のないことだ。
「そうか…お母さん、和哉にも教えてたんだ」
「そのあと云ってたよ。姉さんの力になってくれって」
「お母さんもお節介よね。アンタみたいのが、力になんかなるハズないのにね」
「ずいぶんな云われ方だな。もっとも、そうかも知れないけど…」
オレには、笑って次の出方を見守るしかない。
「もう寝ましょうッ」
亜紀は立ち上がると、俯いたまま寝室に消えた。
本人が語らない以上、オレは訊けない。
――今日のとこれは諦めるとするか。
「姉さん、おやすみ」
その日以来、亜紀は現れなくなった。