田舎教師-4
2日目の夜を迎えていた。脱水症状なのだろうか、太股のあたりが痙攣を起こす。しばらくすると、少しずつ意識が薄れ始めた。このまま死んでいくのだろうか。
そのとき、玄関に人の気配がした。話し声がする。一人ではないらしい。続いてドアを蹴破るような大きな音がした。そして監禁部屋のドアが開くと、そこに立っていたのは婦警さんだった。婦警さんは体操着姿で梁から吊された私の姿を発見すると、一瞬驚いて立ちすくんだ。それから駆け寄ってきて、まず猿轡をはずしてくれた。
「大丈夫?」
私は大きくうなずいた。男性の警察官が足首のロープをほどいてくれ、それから婦警さんが手首と胸のロープをほどいてくれた。
「担架、担架!」
男性の警察官が叫んでいる。私は婦警さんに言った。
「大丈夫。歩けます」
婦警さんは優しく微笑んだ。
「寒いでしょ?」
私は頭からすっぽりと毛布を被せられる格好で婦警さんに抱かれ、周りを男性警察官に取り巻かれて玄関先の救急車に乗り込んだ。報道のカメラらしいフラッシュが光り、あたりは騒然としていた。
婦警さんが私の両脚に毛布をかけてくれ、私は部活に着てきた制服のジャケットを羽織った。救急車が走り出した。
「本人、思ったより元気です。意識もしっかりしてます」
婦警さんが携帯で話していた。私は気になっていたことを婦警さんに聞いた。
「先生は?」
「大丈夫、心配しないで。もうすぐ逮捕されるから」
逮捕という言葉が、私にはなにかピンとこなかった。確かに凶悪犯ということになるのかなあ、私はぼんやりした頭でそんなことを考えた。
先生逮捕のニュースはその夜、病院のベッドで聞いた。市街地のパチンコ屋から出てくるところを発見されたらしい。それはもう全国ニュースになっていたようだった。看護師さんたちは皆優しかった。私もやっとブルマーと体操着を脱ぐことができた。でも何か、心は晴れない。私は看護師さんに言った。
「先生、どうなるんですか?」
「あなたはそんなこと、心配しなくていいの」
「刑務所に入るんですか?」
看護師さんは少し戸惑っていた。
「それは裁判所が決めることだわ。ともかくゆっくり休みなさい」
両親も駆けつけてきた。私の顔を見るなり、母は涙が止まらなくなった。
私は数日で退院することになった。
「お父さん、もう明日、退院していいって」
「よかったな。学校は、無理しなくていい。A子の好きなようにしていいんだ」
父の気遣いはわかった。狭い田舎町に降ってわいたような事件、いろんな噂が飛び交ったに違いない。
「大丈夫、あたし、来週から学校に行くよ。お友達も見舞いに来てくれたし」
「そうか」
父はほっとしたような、なんとも嬉しそうな顔をした。先生は県警で取り調べを受けていた。両親も、誰もがその話題には触れようとしなかった。
先生は起訴され、一審で重い懲役刑が言い渡された。現在、高裁で控訴審が行われている。