Misty room / リバーシブル・ライフ-1
季節は、もう巡らない。
ハルも、
ナツも、
アキも、
フユも、
感じることの出来ないこの場所で、俺は生きていくのだろうか。
彼女が与えてくれた時間は延々と続いていく。
何を犠牲にして、何を得たのか。今となっては、思い出すことすら出来ない。
『Misty room ~リバーシブル・ライフ~』
アキのその目は、俺を救ってくれる決意だと分かった。
痛いほど感じた。
「もう、いいか?」彼は聞いた。
俺には答える術は無い。
ただ、彼が俺を殺そうと手を伸ばす刹那、思い出していた。
それは、秋人との出会い。
いつも遠くから子供たちの輪に入れずにいた少年は、ひ弱な第一印象だった。
―― 入りたいなら、こっちこいよ
偉そうに、同い年だった俺は、彼に初めて声を掛けた。
―― やりたいことは、口に出して言えよ。自分から動くんだ
俺の幼い頃からの教訓だった。
未来は自分で拓くものだ。
そう、信じていた。
戻ることも、進むことも出来ない今の俺には、到底依れない言葉だ。
それは、秋人との日常。
小学校二年から高校三年まで奇跡的な確率で、俺たちは同じクラスでありつづけた。
いつも一緒で、くだらない冗談で毎日を染めた。
そのやりとりに惹かれたのだろう、奈津美はどこからともなく、自然と俺たちの間に割り込んできた。別に嫌では無かったけれど、微妙なバランスになりそうで、アキは一歩引いて俺と奈津美を見るようになった。
『何か、奈津美が関わるようになって、俺たち、変わったか?』心配になって俺は聞いた。
『仕方ないさ、いつまでもガキじゃいられないんだし』アキは言った。
ガキをやりながら、大人に成りたかった。
無理だと分かっていても、例えば俺たちが顔を合わせればいつでも十代に戻れるような関係でいたかった。
けれど、アキは俺よりもはやく、大人に近づいているようだった。
『なぁ、アキ』
『ん?』
『もう高校生活も、あとちょっとだから言っとくわ。恥ずかしいけど』
『今更、恥ずかしいことなんて』アキはおどけた。
『俺は、何でも自分でやりたい性質だ』
『知ってるよ』
『自分の人生だ。自分で決めた道を生きたい。生かされる人生なんてまっぴらだ』
『僕たちニンゲンは、カミサマによって生かされている、という説もある』言いながら彼は笑った。カミサマ?そんなもんクソ喰らえだ。そんな表情だった。
『カミサマ?そんなもんクソ喰らえだ。もしそんなもんに委ねるくらいだったら、アキに預けた方がマシだな』
『は?何を?』
『だから俺の全てを』
『気持ち悪いな、一体何の話だ?』
『分からん。途中から何を言いたいのか分からなくなった』
何だ、それ。言ってまた彼は笑った。『大体、僕に預けたら、お前の意志じゃねぇじゃん』
『いや、アキに預けるという、俺の意志だ』
馬鹿言ってんじゃねぇよ。
ついにアキは声を出して笑った。
つられて俺も笑った。
大丈夫だと思った。
これからも、俺たちは。
その日見せた笑顔が、最後だった。