想-white&black-K-1
彼に初めて会った時は、その磨き抜かれた美貌とどこか孤独を孕んだ雰囲気に恐怖すら感じた。
今まで出会ったこともない、むしろこれから先も出会うはずのなかった世界に住む人間だと。
行き場を無くした自分の手を取ってくれはしたが、交換条件をつきつけ陵辱という形で私という人間の尊厳を根こそぎ奪っていったのもまた彼だ。
だが一緒の時間を過ごすうち、憎しみと同時に彼に好奇心を抱いていた。
どうして私を連れ帰ったのか。
性欲を満たすためだけなら、逃げ出した者の居場所をどうしてわざわざ探したりなんかしたのか。
彼の行動は全くと言っていいほど理解できない。
彼は一体どういう人生を歩んできた、どんな男なんだろう。
周囲は皆彼という人間のすごさを語って聞かせる。
確かにその家柄も頭脳も才能も、類い希なる容姿も、纏う雰囲気も他の人と比べて並外れている。
だがそれだけではない。
彼は普通じゃない。
人の羨むもの全てを手にしていながら、どこかが壊れている。
無謀なことを平気でするくせに繊細だ。
目が、離せなくなる―――。
憎しみはいつの間にか抱いてはいけない想いへと変化していった。
隣に並ぶ、美しい女性を羨み嫉妬してしまうものに。
そんな自分に愕然とし、怖くなった。
いつか、離れたくないと望んでしまう日が来ることを恐れた。
だから、逃げ出したのに……。
それでも心の奥底は、彼の姿が焼き付いて離れてはくれなかった。
「ん、ぅ……」
夢から醒めるような感覚に次第に意識が戻っていくのを感じながら、ふっと重い瞼が開いた。
ベッドに横たわっていることはさらりとしたシーツの感触で肌で感じ取れた。
ぼんやりと朧気な意識の中ではあったが、なぜか身体を動かそうとしてもそれを拒んでいるかのように思うように動かない。
唯一首から上だけは何とか動かせるようだ。
だが他はまるで神経が遮断されてしまっているみたいだった。
それでもだんだんと意識ははっきりとした輪郭を形作り始めていたし、肌で感じる温度やシーツの感触はきちんと分かる。
ただ、身体だけが言うことをきかないのだ。
「私、一体……」
何が起こったのか思いだそうとした時、頭上から低い声が降ってきた。