想-white&black-K-9
「私などに頭を下げることはありませんよ」
「え?」
相変わらず淡々とした口調ではあったがそこには怒りは込められていないような気がした。
「皆が心配していたのは本当のことです。保坂も双子達も、少なからず私も。それがこうして無事で戻られただけでもう良いのです。楓様がお許しになったのなら、私達に否はございません」
「楓さんが私を許したとは思えないんですが……」
理人さんの言葉に驚きを隠せない中、しまったと思った時にはつい本音がこぼれてしまっていた。
「……確かに分かりにくいとは思いますが、こうして探し回ってあなた様を連れ戻した時点で許しておられると思います。そうでなければとっくに見捨てている、そんな方ですよ。英楓様は」
「…………」
とても全てを信じることは難しかったが少しだけ心が軽くなるのを感じた。
だが次の瞬間理人さんらしい厳しい言葉が降りかかる。
「ですが私個人としてはこのような騒ぎを起こしても尚、花音様を手放さない楓様を理解できない部分もあります。あなた様の何がそんなにあの方を執着させるのか……。とは言え花音様。以前申し上げたこと、どうかお忘れなきよう」
そう言って一礼するとまっすぐ伸びた背筋をこちらに向け、無駄のない動作で部屋を後にする。
「忘れるわけ、ないじゃないですか……」
取り残された私はただ理人さんの言葉を噛みしめながらそう呟いて、胸が押し潰されそうなのをただ堪えることしかできなかった。
それから昼食を部屋まで運んできてくれた双子達に涙ながらに抱き付かれ、彼女らが心から心配してくれていたことを実感することになった。
こんな風に私を思ってくれる人間などもういないと思っていたのもあって、純粋に双子達の涙は心を癒してくれる。
「ごめんなさい。瑠海さん、瑠璃さん。そんなに心配させてしまっていたなんて知らなくて。勝手なことばかりしちゃって……」
そう言うと二人して首を横に振る。
「いいえ、私達が花音様を心配するのは当然のことです。出会ってからまだ日は浅いですが花音様は私や瑠璃にとって大切な方なのですから」
「そうですよ。いきなり楓様がお連れになった時は確かなびっくりしましたけれど、日々お世話させていただくようになって本当に楽しかったんです。お優しくて素直でらして私達にも気を遣っていただいて、いつの間にかお守りしたいと心から思えたのです」
二人の言葉に胸が熱くなる。
私としてはむしろこちらが感謝すべきだと言うのに。
きっとこの二人がいてくれたから、こんな別世界のような所でも何とか暮らしていけたのだから。
(私の身勝手さがこんな風に誰かを悲しませたり迷惑をかけたりしてしまう。楓さんのことも胸の内に秘めておけば誰も傷付けたりしない)
そう自分に言い聞かせるようにしながら、これから彼女達のためにも心配をかけないようにしようと心に誓った。