想-white&black-K-8
目が覚め、時間を確認するともう昼近くで陽も高くなっていた。
ベッドには私一人だけでやはりあれは夢だったのだと、勝手に落胆している自分を滑稽に思いながら重い身体を起こす。
穏やかで幸せで、目覚めてしまえばあまりにも切ない夢だった。
ふと肌に触れてみると綺麗に拭かれているらしく不快さはないし、破かれた服は別の物に変えられていた。
多分これは楓さんがしてくれたのだろう。
手酷く抱くくせに、その後の始末は必ず自らの手で行う。
これまでも気を失えば絞ったタオルで全身を拭いてくれたし、意識がある時は風呂に入れてくれた。
その行為自体恥ずかしくて何度も断ったのだが、なぜか楓さんは頑なに譲らない。
だから私は楓さんを除けば他の誰にも自分の身体を見られたことはないのだが、疑問を問いかけてもはっきりした答えが返ってこなかった。
指で自分の肌をなぞりながら静かに溜め息をついた時、部屋のドアがノックされた。
「は、はい」
ここは楓さんの部屋だから本人ならノックなどしない。
とは言え、これが私の部屋だったとしても彼はノックしたことなんかなかったけれど。
緊張に息をつめているとゆっくり開けられたドアの向こうには、変わらない無表情さでこちらを見つめる理人さんの姿があった。
「失礼いたします、花音様」
淡々とした抑揚のない声も感情を映さない双眸も変わらない。
だが余計にその瞳が彼がどんな目で私を見ているのか分からず、逃げ出したいような衝動にかられるのだ。
苦手、と言うよりは正直楓さんとは別の意味で怖かった。
ベッドから少し距離をとった場所まで静かに歩み寄ってくると、切れ長の瞳がまっすぐに私をとらえる。
「まずはご無事で何よりでございました。楓様を始め、皆花音様の安否を心配しておりましたので」
感情を表さない理人さんの言葉からはそれが本気の言葉かどうか知ることはできない。
それでも私が言えるのはたった一つだけだ。
「ご迷惑をおかけしてしまって、本当にすみませんでした……」
勝手にここから逃げ出して連れ戻された後ろめたさから目を合わせることもできず、ただ頭を下げる。
僅かな沈黙の時間が耐えられない程長く思え息苦しい。
理人さんから見れば主人である楓さんを侮辱するような行為を犯した私を許せないだろう。
これまでも良く思われていなかったのに尚更不快な存在になるはずだ。
そんな怯えの中沈黙を破ったのは理人さんの方だった。