想-white&black-K-7
「ふあっ、う……っ、身体、何か変……っ」
「ああ。あれは持続性もかなりのものらしいからな。今夜は眠れると思うなよ。報いを受けろ」
そう言って酷薄な笑みを浮かべ、長い指が顎をすくうと唇を荒っぽく塞いできた。
事実その夜は空が白むまで眠ることはできなかった。
ようやく解放されて眠りの中に落ちた時、一度だけふと目が覚めた。
ぼんやりとした視界に楓さんが向かい合うようにしながら横になっていて、なぜか私を見つめているものだからついこちらもぼうっと見てしまう。
思いがけずその双眸が穏やかに見えてしまったのは……、寝ぼけていただけなのかもしれないと思い直した。
そんな中私が目を覚ましたのを見た楓さんがすっと手を伸ばして瞼を覆った。
相変わらず冷たい指の温度に微かに震える。
「楓さん……」
何となく彼の名前を呟くと、楓さんがふっと小さな笑みを漏らしたのが分かった。
なぜ笑ったのかは分からない。
そんな笑い方をするのがとても珍しいとぼんやり考えながら、覆われた視界の暗さに心が落ち着く。
「眠れ。花音がきちんと眠るまでここにいるから」
相変わらず耳に心地良い低温に私は何の疑いも持たず、素直に頷いていた。
「いい子だな。花音」
私が頷いたことに満足したのか、楓さんはそう言ってもう片方の手で頭を優しく優しく撫でてくれる。
いつもなら楓さんが側にいると身体を弄ばれる恐怖心と同時にざわめいて落ち着かないのに、今回は彼の言葉が胸に染み込んできてじんわり温かくなっていく。
でもきっとこれは夢を見ているのだろう。
自分に都合のいい、ささやかな幸せを感じることができる夢。
そうでなければ楓さんがこんなに優しい訳がないのだから。
だから、そう、今なら。
これは夢なのだから。
我が儘を言ってもいいかもしれない。
たった一つ、私の我が儘を。
「楓さん」
「……何だ」
名前を呼ぶと思いがけず柔らかい声が返ってきた。
ああ、これだけで胸が熱くなる。
「私を、捨てないで下さい」
「…………」
「抱き殺しても構わないから……、あなたの、側……に……」
言葉を口にしながら、だんだんと深い眠りへ再び引きずり込まれていく。
楓さんからの返事が聞きたかったが、意識が遠のくのを止められない。
だがそれでもいい。
どうせ、これは夢なのだから。
現実で同じことを願ったら彼からの答えはきっと……。