想-white&black-K-2
「どうやら目が醒めたようだな」
聞き覚えのある声にビクッと心臓が震えた。
ゆっくりとクリアになっていた輪郭はその声で一気に吹き飛ばされる。
「か、楓、さ……」
声の方向に首を動かすと静かな笑みを浮かべた楓さんがベッドの脇から私を見下ろしていた。
「気分はどうだ?」
そう言いながらすっと長い指が伸ばされ、私の首筋から耳をそろりと撫で上げると、ぞくっとした感覚が強烈に駆け抜けていった。
同時に身体の奥でじんとした痺れと疼きを伴った熱を帯びていく。
「な、に……?」
声は掠れ、吐く息が熱いことに訳も分からず恐怖心を覚えた。
「お前にしてはなかなかいい目をしているぞ? 男を誘う、いやらしい目だ」
じっくり観察するような眼差しを向けながら愉しそうに笑う。
私は彼の言っている言葉の意味が分からないまま、奥から沸き上がってくる衝動を無意識に耐えていた。
「身体が熱いだろう。頬も上気して瞳も縁が赤く染まっている。眉唾ものだと思っていたが想像以上に効き目があったようだな」
効き目……?
一体私に何をしたのか、と考えたところではっとする。
目が覚めて身体が異変を現すまで何があったか、記憶の糸を手繰り寄せると心当たりはただ一つ。
「あの、お茶……?」
そう呟くと楓さんが答えを肯定するかのように唇の端を引き上げて笑った。
薔薇色の不思議な飲み物だと思ってはいたが、まさかあれに何か含まされていたのだろうか。
「正確にはそれに入れられていたシロップの方だがな。茶自体にもいくらか効果はあるようだが、まさかこんなに効くとは思っていなかったぞ」
「私に、一体何を……」
得体の知れない物を体内に入れられ、自分がどうなってしまうのかと思うとぞっとする。
「かの砂漠の国では後宮にいる女達に使うため、特別に調合されるという媚薬だ。意識ははっきりしているが身体の自由を奪い、女をその気にさせるらしい」
「その、気?」
「ああ、そうだ。なってきているだろ?」
ぐっと顔を耳元に寄せ、吐息をかけるように熱っぽく囁かれるとどくっと心臓が高鳴った。
形のいい唇の動きが扇情的な気分を煽る。