想-white&black-K-12
今日は何とか意識を飛ばさずに済んだため、その後はやはり予想通り浴室へ彼に抱き抱えられてここにいる。
背中から抱き込まれるような体勢なので彼の表情をみることはできないが、ここ最近声の調子でどんな気分なのかはだいたい分かるようになった。
基本的に喜怒哀楽といった感情を表面に出してくることは少ないが、全く無表情という訳でもない。
無表情さで言えば理人さんの方が人形のように無機質で温度を感じられない。
「そう言えば抱かれている最中も何か別のことを考えていたな」
「そんなことは……」
ない、と続けようとした言葉はあっさりと切り捨てられる。
「俺をごまかせるとでも思ってるのか?」
「…………」
それについては反論のしようもなかった。
私が嘘をつくのが下手ということもあるが、楓さんは人の機微を読み取るのに長けている。
ちょっとした表情、仕草、言動などからもその人間の本質や本心を暴いてしまう。
だから私のついた嘘などいとも簡単に見破るのだ。
何も言えず黙り込んでしまうと、大げさなほど呆れたような溜め息が髪を揺らしていった。
「どうせお前が気にしているのは麻斗のことだろう」
「……っ!」
あからさまに反応した私の顎に指をかけると自分の方へ向けさせた。
間近に迫った眼差しは鋭く私を貫く。
「あれに会ったのか?」
「それは、その……、本当に偶然で、あの、わざとじゃ……」
怒りを滲ませた声色に心臓が凍り付きそうになる。
自ら会おうとして会った訳ではない。
たまたま、偶然だったのだときちんと説明すればいい話なのになぜかそれを上手く言葉にできなくて、緊張からなのか鼓動が速く息をするのが苦しい。
また怒らせてしまったことも怖いが、何よりも決定的に嫌われてしまうことが恐ろしかった。
だがそんな怯えとは裏腹に楓さんは顎から指を離すと、より密着させるように私の身体を引き寄せた。
「……同じ学校に通っているんだから会うなと言う方が無理な話だ。それにお前も招待されたんだろう? あいつの誕生日」
「あ、……はい」
「正式に招待されたのなら断る訳にいかない。俺の家と結城の家は繋がりも深いし、俺が顔を出さないことで周りに余計な噂をたてられるのも面倒だ」
そう言えば二人は子供の頃からの知り合いらしいがただ単に同級生だからという感じではなさそうだ。
「そういうものなんですか?」
私に彼らの世界のことは分からない。
望む望まないに関わらず背負わなければならないものがあるということなのだろうか。