想-white&black-K-11
「なあに固まってんだよ、花音。元気だったか?」
いつもと変わらない明るい口調で片手を上げた麻斗さんに目を瞠りながら、彼の頬に酷い痣があることに気付く。
「あ……っ」
きっと楓さんに殴られた時についたものだ。
さほど日にちも経っていないせいか、まだ腫れているのが一目で分かる。
彫刻のように彫りが深く、端正な顔立ちなだけに痛々しい。
(私の、せいで……)
私の視線が頬の痣に向けられているのを気付いた麻斗さんは苦笑いを浮かべて頬をさすった。
「これ、結構ひでえことになってるだろ? あいつ加減ってもんを知らねえから思いっ切りやりやがってさ。あ、でも花音のせいじゃねえからな。そんな風に思ってるなら間違いだぜ」
「でも……」
「これは俺の自業自得。それにこれっぽっちも後悔してねえし。……花音のこと、連れ去ったことは、な」
そう言って向けられた視線は以前より男らしく危うい色気を帯び、頬の痣がそれをより引き立てているようだった。
眸の奥にちらつく野心的な炎は鎮まることを知らず、未だ底知れない何かを感じさせて背筋がぞくりとしたのは気のせいじゃない。
だが麻斗さんは一瞬のうちにそれを隠してしまうと、少年のような笑顔を見せながらベンチから立ち上がる。
「もっと花音と話してたいけど見つかったら誰かさんがうるさそうだし、俺は行くわ。あ、そうだ」
制服のポケットから封筒のような何かを取り出すとすれ違いざまに手渡してきた。
「約束してた俺の誕生日パーティーの招待状。楽しみに待ってっから」
そう告げて顔を見ることなくそのまま校舎の方へと歩いていってしまい、私は渡された封筒を手にしたまま去っていく麻斗さんの背を見つめることしかできなかった。
「何を考えてる」
「ひゃっ」
不機嫌そうな低い声が耳元で響き、無意識のうちに考え事をしていた私は驚きのあまり肩を跳ねさせてしまった。
思わず声がひっくり返ってしまい、慌てて口元を押さえる。
「俺と風呂に入っている最中だというのに心ここにあらずか。いい度胸だな」
屋敷に戻り夕食を済ませた後、楓さんの部屋に呼ばれた私はベッドへと引きずり込まれ激しく抱かれた。