想-white&black-K-10
二日後学校にも復帰すると、一週間以上の欠席を楓さんも欠席理由を体調不良で届けてくれていたことを知った。
おかげで周りのクラスメイト達が次々に声をかけてきて愛想笑いと嘘を説明するのが大変だったが、それもこれも大半はきっと楓さんがバックについているからだろう。
私を通じて彼に近付きたい人間は多いらしく、逆に遠縁という理由で楓さんの側にいる私が気に入らない人間が存在することも知っている。
あえて気にしないようにしてはいるが、改めて楓さんの力や魅力を思い知ることになった。
昼休みになり、人に囲まれるのにさすがに疲れてしまった私は用があるからと教室を抜け出し人気のない場所を求めて中庭へと向かった。
あんなに見事だった桜並木はすっかり花弁が散ってしまい、変わりに足元に薄桃色の絨毯が一面に敷かれている。
もう桜の季節も終わってしまった。
それが胸を締め付けるように切なくなるのはなぜなんだろう。
いろんなことがありすぎて感傷的になっているだけなのかもしれない。
どこに向かう訳でもなく、ただ花弁を踏みしめるようにゆっくり歩いているとふとベンチに横になる人影が見えた。
眠っているのか長い脚を投げ出し、両腕で顔を覆うようにしているその姿に心臓が止まったかと思った。
数メートルは離れているし、顔も隠れて見えない。
だが私の中の何か、直感みたいなものが間違いないと叫んでいる。
まさかこんな所で会ってしまうとは思っていなかったが、思い出してみればよくここには足を運ぶと言っていなかったか。
陽の光を受けた金色の髪がとても綺麗で胸が苦しくなる。
私を助けようと連れ出してくれた、優しい人。
「麻斗、さん……」
呟いた声は離れた所にいる彼まで届くはずもないのに、まるで呼ばれたかのように彼の身体がぴくりと反応した。
そしてゆっくりと上半身を起こして、眩しさに細められていた彼の双眸がふっとこちらに向けられるとお互いの視線が繋がる。
「花音?」
驚きを隠せないように見開かれた瞳から目を逸らすことができず、時が止まってしまったのかと思うほど私達はそのまま見つめ合っていた。
どれくらいの時間そうしていたのだろう。
短いようで長くも思え、長いようで短くも思えた。
どんな顔をしていいのかなど分からなくて、でもそこから立ち去れない。
ただ立ち尽くして戸惑っている私を見た麻斗さんは、何か可笑しそうにふっと笑みを漏らした。