「先生、原稿お願いします!」-6
「でかした、凄いぞ!」
編集長は、文字どおり躍り上がって喜んだ。
編集部の面々が探るような視線を向けてくる。自分のしたことが見透かされているようで、由希は思わず真っ赤になって俯いた。
その原稿の本当の凄さがわかったのは、雑誌が発売された後だった。渡瀬の小説が載った号は増刷に継ぐ増刷であった。
「よし、渡瀬先生の担当は由希にする。どんどん、原稿をもらってきてくれ」
編集長が有頂天でそう言った。
「はい…」
仕事がうまくいったうれしさの反面、由希は複雑な思いを感じていた。
「由希、電話だぞ!」
生駒の声がして、受話器を取る。渡瀬からの電話だった。
「新しい小説のネタが浮かんだんですよ。もしよかったら、今日、ちょっと、来てもらえますか…」
由希はスケジュール帳を開いた。そこには和彦との今日の予定が書き込まれていた。
「…わかりました。伺います」
一瞬だけ躊躇した後、由希はそう答えて、閉じたスケジュール帳をバッグに入れた。その胸はなぜか甘い期待に膨らんでいた。