「先生、原稿お願いします!」-2
「いやあ、旨い。人間らしい飯を食ったのはひさしぶりだ!」
渡瀬が上機嫌で言う。由希は部屋を大掃除してきれいにし、食事まで作った。はからずも、由希の手料理を二人で囲む形となった。
「ねぇ、君、帰らないの?」
旨そうに肉ジャガを食べていた渡瀬が、由希の顔をまじまじと見る。由希の奮闘にかかわらず、原稿は手付かずのまま放置されていた。
「原稿取れるまで、帰って来るなって言われてるんです」
由希の表情が厳しくなる。
「困ったなぁ…」
渡瀬がため息をついて、ぽつりと漏らした。
「実は、さっぱり書けないんだ」
「そんなこと言って、ごまかそうとしないでください!」
憤慨する由希に、渡瀬が寂しそうな表情で言った。
「僕は基本的に官能小説家だから、どんな原稿を書く時も、セクシャルな興奮がないと、インスピレーションが浮かばないんだ。これまでは妻がいたからね。彼女に目の前でエッチなことをしてもらったり、セックスしてるうちにアイデアが浮かんできたんだ。でもね…」
愛妻とはささいなことが原因で離婚してしまった。意外なことに女性にオクテなところがあって、恋人などもできない。アダルトビデオなどでは、興奮はしてもインスピレーションにはつながらないのだと言う。
「どうだろう…、もしよかったら…、ちょっと、ここで脱いでみてもらえないだろうか?」
真顔で言う渡瀬に、由希は飛び上がって首を振った。
「えっ、そんな!ダメです!お断りしますっ!」