光の風 〈国王篇〉後編-1
この地に田畑を築いたのは遠い先祖達。
この地に城を築いたのは遠い先祖達。
この地で国旗を掲げたのは初代国王。
そして代々受け継がれた国旗を今、この地で掲げているのは現国王カルサ・トルナスと秘書官サルスパペルト・ウ゛ィッジだった。
しかし、対となっていた力は二分され、一つは消えようとしている。それがどちらなのかは、誰にも分からない。
ただ、そうなって欲しくはないと願う者は数えきれなかった。特に強く願う者の一人が国の大臣であるハワード、その人だった。
「そうですか、ナル様が亡くなりましたか。」
想像していたよりも素直に事実を受けとめていた。
ハワードの仕事部屋、考え付いた場所に案の定彼はいた。いつものように責務をこなしている中の訃報に、手元にあった本を静かに机の上においた。
そして放ったのがさっきの言葉。
「思ったより落ち着いているな。」
それはカルサの素直な感想だった。貴未も同意するように頷く。
二人の反応にハワードは微かに笑う。その姿に思わず目を奪われた。彼が笑うところを見たのは、いつ以来だろうか。笑う姿が思い出せないほど遠い昔だという事は間違いなかった。
「ナル様とは長い付き合いです。その分思いが深い。だからでしょうか、会いにきてくれました。」
「ナルが…。」
最後の挨拶に、その言葉をカルサは静かに飲み込んだ。明らかに今までと違う空気をまとうハワードの姿が穏やかだったから。
亡くなった人を想う、どこか切ない表情ではなく、ただ懐かしい人を愛しく思う顔付きだった。彼にしてみればいつもと変わらない挨拶だったのかもしれない。
「ナルとは暫くの別れだな、大臣。」
カルサの言葉に大臣は少し驚かされたようだった。暫くの別れ、近い内に再び会えるだろうと思っていた大臣の心を見透かした上での台詞だった。お前にはまだまだ助けてもらうという思いもあったのだろう。
「そうですね。」
短く答えるとハワードはまた微笑んだ。
「陛下、先程連絡が入りサルスパペルト様が緊急会議を行なうと聞きましたが。」
「サルスが?」
カルサの思いに応えるべく、今を貫くと踏み出した第一歩だったが、予想外のカルサの反応に大臣は目を細めた。
「ご存じ有りませんか…いけませんね。お二人の間で意志疎通がなされていないのは問題です。」
その言葉にカルサは何も言い返さなかった。俯く事もなく、大臣と向きあったまま動かない。それはまるで睨んでいるようにも見えた。