光の風 〈国王篇〉後編-8
「深く、聞いても?」
貴未は頷く。しかしその前に伝えなければいけないことがある。
「ここからが知らなくてもいい事です。」
ハワードは頷いた。
「貴方に話す私を許してください。」
「私が願った事だ、貴未。頼む。」
近くにマチェリラがいるのを感じた。貴未は心の中で彼女に一言謝り、口を開く。
「話は、遠い過去にまで遡ります。」
頭の中はまるで嵐のように目まぐるしい。頭の中というより、感情が、といった方が正しいのだろうか。しかし気持ちはどこか冷静だった。
「サルスを知らないか?」
廊下で端に避け頭を下げる女官に声をかけた。女官は頭を下げたまま、龍の間にいると答える。負傷兵を集めて会議を行なっていると、女官の言葉にカルサは少し前のサルスとの会話を思い出した。その会議が終わると、次は大広間で大規模な会議を行なう予定があり、ハワードを呼びに行くように言い付けられたと続けた。
「そうか、引き止めて悪かったな。」
カルサが通り過ぎると女官は態勢を戻し、再び歩き始めた。今頃は貴未がハワードと話をしている頃だろう。彼女が着く頃には話が終わる、そう考えると自然と表情が暗くなった。
ハワードの言葉が頭の中で反響する。
両手を掲げても何も感じなかった。目に何を映しても空しい。こんな気持ちではいけない事は分かっているのに、それが出来ない自分が情けなくて嫌になる。
憂いているような性格ではない。例え足元が崩れそうでも飛ぶしかないのだ。
「千羅、いるか?」
カルサは小さな声で彼を呼んだ。呼ばれてすぐに姿を現し、千羅はお辞儀をしてみせた。
「はい、ここに。」
千羅の姿を確認すると、カルサは自然と笑みをこぼした。
「そっちの様子はどうだ?」
「準備は整いました。後は出発を待つのみです。」
そうか、と呟き、カルサは窓の外を眺めた。千羅もそれに合わせる。どこか様子がおかしい、カルサの変化に千羅は気付いた。
「どうかされましたか?」
カルサの目が、少し潤いを帯びたように見えたのは気のせいだろうか。不安になり、千羅は声をかけずにはいられなかった。