光の風 〈国王篇〉後編-6
「ハワード、オレからは以上だ。」
言葉が終わると同時にカルサは視線を外し、外に続く扉へ歩きだした。
「ちょっ…おい、カルサ!」
貴未の叫びに反応する事もなく、カルサは部屋から出ていった。後ろ手に閉められた扉の音が妙に響いたのは何故だろう。音が静まると大臣は口を開いた。
「貴未、話してくれ。あの子が抱えている、話す必要の無い事を。」
空気の流れを変えたのはハワードの一言だった。扉を見つめたままの貴未は促されるように振り向く。その表情は話す事を躊躇っていた。
本人が言いたくないことを、自分が話してしまっていいのかと不安になってしまう。
「構わない、あの子は許可を出していった。」
「カルサが?」
「私をハワードと呼んだだろう?」
そういえば、貴未は表情で答えた。ハワードに気付かされたカルサの変化は、貴未にとって些細なものだった。しかし二人にとっては大きく意味の有る事。
「職位ではなく名を呼んだという事は権力を持ってしないという事だ。好きにしろ、ただし自分からは言わない。そう言っていた。」
オレからは以上だ。
カルサの言葉が甦る。貴未は納得したような、出来ていないような、どうにも不思議な気分だった。しかし、カルサがハワードに何かメッセージを残したのは確かだった。
伝えていいのだろう、きっと。しかし、どこまでを?
判断を仰げる人はいない、自分の感覚に頼る以外なかった。話していく中で自分で考えていくしかないのだ、貴未は腹を括った。
「カルサは国を出ます。それはある人物と戦う為なんです。」
「ある人物?」
話し始めから大臣の関心は高かった。
「雷神、風神のような特殊能力を持つ人達の中でも脅威的な力を持つ存在。ウ゛ィアルアイ、彼はカルサがいるこの国を狙っている。」
「それは、カルサが狙いという事か?」
ゆっくりとした口調でハワードは尋ねた。貴未は頷く事で答える。
予想していた最悪の答えにハワードは思わず目を覆った。
「何という事だ!」
囁くような叫びに貴未も同意した。そう、悲劇と呼ぶにも等しい出来事なのだ。
「貴未。あの子の力はどれ位強いか分かるか?」
「どれくらい、ですか?」
ハワードは覆っていた手を離し、苦々しい表情で貴未に問いた。