光の風 〈国王篇〉後編-5
「私にも国を守る責任があります。貴方様と同じ、この国を守らねばならないのです!」
声に力が入る。カルサに伝えたい言葉と自分に言い聞かせる言葉は同じだった。共に国の為、王家の為、自分の為に長年仕えてきたナルが命を落とした。彼女は自らの命をかけて、守れるもの全てを抱きしめようとした。
全身全霊で最後まで闘いぬいた彼女の想いが大臣を奮い立たせる。
「戦う術を持たねば守る事も出来ません。何故それを知る事が許されないのか!」
長い年月の間、責任感だけで務めていた訳ではない。生まれ育ち、過ごしてきた母国を愛しいと思ったから。大切にしたいと思う気持ちからだった。
誰より国を思い、国の繁栄の為に尽くしてきた、その自信は誰よりもある。大臣として国政の中心に位置し、その中でも高い位にいる。自分は国を守れる位置に確かにいるのに、それが出来ない事が悔しくてたまらない。
「答えなさい、カルサ。お前はこの国をどうしたいのだ!?」
大臣の口調が変わった。まるで子供を教育する大人のような、それは決して一国の大臣と王の関係では有り得なかった。
カルサは大臣と睨み合ったまま中々口を開こうとしなかった。誰一人として言葉を発せず、沈黙という静かな戦いが生まれる。
「死にたいのか?」
冷たい目で探るように睨みを利かせる。沈黙を破ったのはカルサだった。
「ただ守りたいだけだ。」
大臣も短く答えた。
「この国をか?」
嘲笑うようにカルサは吐き捨てた。特殊な力を持たない人間にとっては雲の上で起こっている出来事にすぎない。何をどうしても圧倒的な力の前には術はないのだ。それは圧倒的な力を持つカルサには分かりきった事。
「この手で救える者を守るだけだ。」
大臣の答えに怪訝な顔をする。
「それが始まりだろう?」
その言葉にカルサの目は大きく開く。伝わった、大臣は心の中で確信した。
それは王位を継いだばかりの二人に告げた言葉。そしてこれからの支えにした言葉。
国という大きなものを守ろうとすれば、小さな両手からこぼれ落ちてしまう物は決して少なくはない。目の前にある大切なものを守る、守りたい。その気持ちの延長線上に国は存在する。
多くの物を見て、多くの物を聞く、自分で救える物を広げていけばそれはいつか国となる。ただ全力で守れるものを守る事が大切なのだと、それが始まりだった。
「カルサ。」
大臣の声にカルサは目を閉じた。やがてゆっくりと目蓋を開き、大臣と向かい合う。
「お前に言うべき事は何もない。」
変わらない低く冷たい声が響く。貴未は異論の声をカルサの名を叫ぶことで示した。