光の風 〈国王篇〉後編-4
「生前、ナル様は私におっしゃいました。貴方はこちら側に来てはいけない、命を落とすからと。」
あの時のナルとのかけあいを鮮明に思い出す。寂しげな表情はこの事態を予期していたからなのだろうか。
「言わんとしている事は分かります。しかし、この状況で通用しますか?」
「大臣。」
「ナル様は死に、陛下は国を去ろうとしている。無知な者だけが残るこの国で何が出来ましょうか!?守りきれる自信がお有りだと!?」
「大臣!」
感情の高ぶりが声の大きさに比例していく。大臣の勢いを止め、自らも落ち着きを取り戻そうとカルサは深呼吸をした。
しかしそれは溜め息になる。ついさっきまで同じような言い争いをサルスとしていた。同じ事をまた繰り返す、何故想いが伝わらないのかと苛立ちさえ覚える。全てを曝け出すことが良い事など少しもない。
これは相手の為でもあり、自分の為でもあるのだ。
「カルサ、口を挟むけどいいよな?」
貴未の声にもカルサは枯れた声で肯定の声を出すだけだった。
「もうカルサ一人の力じゃどうにも出来ない。本当は分かってるんだろう?」
カルサは何も答えなかった。黙ったまま、まるで綺麗な答えを探すかのように、慎重に言葉を選んでいるように見える。
「誤魔化せないんだよ。」
貴未の言葉が胸に響く。この時初めてカルサは貴未と目を合わせた。寂しげな表情、しかしもうどうしようもなかった。
「これは御剣の戦いだ。生きるか死ぬかの戦いなんだ。特殊な力を持たない者が介入するのは自殺行為にすぎない。」
拳に力が入る。
「ナルはそれに巻き込まれた。」
それぞれの脳裏にナルの姿が浮かび上がった。特にハワードにはそれが強くでた。あの時のナルの言葉、はかなくも強さを持った様子が頭から離れない。
貴方はこちら側に来てはいけない。私は知り過ぎてしまった。
それは少し後悔しているようにも思える口振り、だからこそ来てはいけないと。来ないで欲しいという気持ちが感じられた。
だから大臣は必要以上の追求は止めたのだ。
「人には知らなければいけない事と、知る必要の無い事がある。大臣、お前に話す事は何もない。」
カルサは毅然とした態度のまま告げた。貴未は彼の名を呼ぶ事で異議を唱える。大臣と睨み合ったままカルサは何の反応も示さなかった。
「陛下。私は大臣という職位に誇りを持っております。その立場故に課せられた命も十分に理解しています。」
突き放されても大臣は再び立ち向かった。