光の風 〈国王篇〉後編-3
「この国は守れませんぞ。」
冷静さを取り戻した大臣の言葉は、さっき武器庫でサルスに言われたものと同じだった。しかし何故か深く重い。
「今まで城や国全体の守りを固めてきた。今まで以上の策も用意してある。万事に対しての備えは、サルス就任後しばらく保つようにしてある。」
「今まで以上では無意味なのです。王が変われば国も変わる、今までとは違う対策や守りが必要です。」
「それは次期王がやればいい。」
「出来るのですか?」
息継ぐ暇もなくカルサと大臣の会話は続いていく。会議中にもたまに見られる光景だが、いつにも増して険悪なムードが漂っていた。
「中途半端な宿題を残すなと言いたいのか?」
「いいえ。」
大臣の声は今までと違い、言葉を濁らすような重い音だった。
「陛下の存在は余りに大きすぎた。いくら陛下が完璧な手を取ったとしても、兵士を含む国民誰しもがそこから抜け出せないでしょう。」
熱い気持ちが鎮まり、大臣は丁寧に言葉を綴り始めた。
「私も同じです。いくらサルスパペルト様が優れた方でも、カルサ様からは抜け出せません。」
「それはサルスを侮っているからではないのか?」
「違うよ、カルサ。」
サルスに対する侮辱に聞こえたカルサは怒りを表に出した。それを鎮めたのは貴未の言葉。
いきなり発言をした事を大臣に謝罪しながらも更に言葉を続ける。
「それが御剣と普通の人との違いなんだ。オレからしても御剣は別格、ましてやお前は国王なんだ。」
「しかしサルスは王族だ。」
「だからだよ。」
カルサの思いと違う方向から二人の思いが入ってくる。
「せめてサルスが王族じゃなければ、比較されずに済んだのかもしれない。」
カルサの目が大きく開いた。
頭の中で様々な思いが駆け巡る。今までの自分の立ち振る舞い、考え、それら全てに何があったのだろうか。
「だからサルスは影を選んだんだろう?」
何故だか貴未の言葉は素直に溶けこんでくる。きっと大臣より近い位置でサルスと接していたという確信がカルサの中にあるからだろう。その言葉をきっかけに、感情的になりすぎて受け入れ損ねた大臣の言葉の意味を深く考え始めた。
大臣は黙り込んでしまったカルサを見て確信する。
「言えない理由。サルスパペルト様は知らされずにいて、貴未は知っているという事ですね?」
厳しい視線はカルサに向けられた。