光の風 〈国王篇〉後編-16
「サルスパペルト様、ハワード様をお連れしました。」
これから大規模な会議を行なう広間のすぐ隣、サルスはその部屋を一時的に貸し切っていた。中に繋がる扉をノックする音が響いた。
中から入室の許可が小さく聞こえる。
「失礼します。」
女官が開けた扉から険しい顔のハワード大臣が入ってきた。完全に中に入ったのを確認すると女官は一例をして静かに退室をする。扉が閉まる音が静かな部屋に響いた。
「急に呼び立ててすまない。」
「いえ、どうかされましたか。」
ああ、そう答えてサルスは少し沈黙の時を作った。いい話でない事くらい安易に分かる。
伏し目がちなサルスを見て再びハワードの中によぎる言葉。貴未から知らされた事の中にサルスも含まれていた。
「ハワード大臣、貴方を信頼してお願いがあります。」
深刻な表情でサルスが申し出た。予想外な展開にハワードは思わず聞き返してしまう。
「願い、ですか?」
「はい。貴方にしか頼めません。」
いつもと違う口調、立場を忘れての言葉なんだと知らされる。尚更分からなくなり思わず目を細めた。
「簡潔に言います。私は何かに操られている。」
突然の告白にハワードの目は大きく開いた。
「操られている?」
「時々…意識を奪われる時があります。その間に何かをしているんでしょう、身に覚えのない事がよく報告されます。」
あの襲撃の時もそうだったと、強く拳を握り締めて声を震わせた。
「このままでは意識全てを奪われ何をするか分からない。これからは私が国を治めていかなければいけないのに…滅ぼしかねない!」
「サルス…。」
「だから貴方に助けてほしいんです。貴方なら私かどうか見抜くことが出来る、無茶な命も止められる、代わりに治める事も。」
ハワードの言葉を遮ってサルスは訴え続けた。焦り、そう呼ぶには少し違う。
恐怖を身に纏いながら必死に戦おうとしている。その為には舵をとる人物が必要だった。
「私の参謀となり、監視して欲しい。」
それが願い。
「監視とは…穏やかではありませんな。」
展開に頭で理解出来ても気持ちが付いていかない。貴未から聞いてはいても受け入れることに必死で、まさか、そんな、本人から打ち明けられるとは。
「カルサが国を出る、継いでも私は長くはもたない。後継者を見付け育てないと。」
両手を眺め、手を握っては開く動作をサルスは何度となくしてみた。胸に深く刻んだ大切な言葉、それは幼少から今までずっと自分に言い聞かせてきたものだった。きっとカルサもそうだろう、そう思うと尚更切なくなる。