winter time-4
いつもはレディーファーストしてくれるペコが珍しく先に入口の段差に足をかけた。
するとふいにこちらを振り返り……。
「あと、ついでに…好きやで」
静かに、確かに、ペコはそう言った。
ポカーンと間抜けな顔をする私をよそに、ペコは満足げな様子でバスの中に乗り込んだ。
外の寒い空気とバスの中の温かい空気が混ざり合う。
運転手さんに急かされて、私も慌てて乗り込んだ。
いまだ手にあるマフラーを握りしめながら、迷わずペコの隣に座るとバスが出発した。
遠ざかっていくバス停を少し見送る。
…これからは、あの寒いバス停で待たなくてもいいみたいだ。
「…ペコ」
「なんや?」
「来年も、マフラー貸してね」
温かいバスの中で、ペコは気恥ずかしそうに鼻をすすった。
冷たかった指先が温かくなっていく。
もう隣りに座るペコとの間に距離はない。
「いや、来年はちゃんとひざかけ貸したるわ」
今日もバスは遅れながら、目的地へ向かって行く。
私とペコを乗せて。
…進む。
そんな冬のひととき。
END