winter time-3
「レナ、携帯変えへんの?」
ペコの半笑いの先には、何度も地面に落として傷だらけの携帯。
私は膝にかかったマフラーの上で携帯を握りしめた。
「ん〜なんか使い慣れてるし。それに今、携帯高いやん。」
「そうやなー。でも充電するとこのカバーないで」
「だってずっとこの携帯やし」
………あぁ、きっと。
流れる時間を止めることができないからこそ、この瞬間が美しくて、温かいのだ。
ペコと出会ってからの高校三年間、ずっと使ってきた携帯。
私はたぶん願掛けをしているのだ。
少し先の道から、バスのエンジンが近づいてくる。
…ひざ元の温かさを離したくない。
「ほな、年明けたら一緒に携帯変えに行こか」
バスの到着が近づくとともに立ち上がったペコは、確かにそう言った。
私はゆっくりそちらに顔を上げる。
「俺も携帯変えたいし。あ、ついでに初詣も行く?」
「…………………」
「レナ、聞いてる?」
「…知ってる…行く」
「ははっ、知ってたんや」
ペコから誘われたのは、この高校三年間で二度目。
一度目は、数学で赤点をとりそうな私にテスト前勉強を教えてくれた時。
あの時のペコはスパルタだった…。
おかげで赤点どころか平均点以上の点数がとれたけど。
プシューっとバスが煙をはきながら到着をつげる。
ベンチから離れるペコはちらりと横目で私を見た。
「あ、ついでにマフラーもうちょっと貸しといたるわ」
「……まじで、神やね」
「知ってる」
「え、神やったんや」
私たちは笑いながら開いたドアに向かった。