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リバーシブル・ライフ
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リバーシブル・ライフ-1

季節は、もう巡らない。
ハルも、
ナツも、
アキも、
フユも、
感じることの出来ないこの場所で、俺は生きていくのだろうか。
彼女が与えてくれた時間は延々と続いていく。
何を犠牲にして、何を得たのか。今となっては、思い出すことすら出来ない。

『リバーシブル・ライフ』 created by Delta
「あなた、お客さんが来たみたいよ」
ちょっと見てきてよ、そう暗に含ませて、ナツは言った。
土曜のお昼時に、誰が訪ねてきたのだろう。
俺は大リーグ中継を消して立ち上がった。
台所からは、トントンと包丁の音が響いていた。
「よぉ」アキだった。
「久しぶり」酒瓶を手に幼なじみが立っていた。
「なんだ、アキかよ」ぶっきらぼうに彼に言う。
「なんだ、アキだよ」意に反さず、断りもなく家に入ってくる。
「あれ、秋人?久しぶりじゃない」
「おいっす、お邪魔させてもらうよ」
「まぁ、座れよ」俺はソファを勧めた。
「アキ、何かつまむものくれ」
「は〜い」
また、トントンと包丁の音が鳴る。先ほどよりリズミカルになった。
「最近来なかったのは、仕事が忙しかったのか?」
「まぁ、二ヶ月間、海外出張してたからね」
「花嫁探しか?」
「仕事って言っただろ」酒瓶の蓋を回しながら言う。
「そう言うなよ。もう三十路だし、俺たちは心配してんだよ、なぁナツ」
漬物とコップを持ってきたナツは「どうして上から目線なのよ」と笑った。
「知り合って十年以上結婚しなかったお前らに言われたくないな、それに・・」
三人は日本酒を手にして、アキの続く言葉を待つ。
「それにハルとナツがいれば、それでいいよ」
どこまでも続いてきた俺たちだ。
きっと、どこまでも続いていく。
――― 乾杯
コップを合わせた瞬間、その世界は暗転した。

そんな、夢を見ていた。
掴むことの出来ない未来を夢見ることがある。
ひととしてのその能力は、今の自分にはただ残酷なだけだった。
どうして人類は、時間を戻す能力より、夢を見る能力を優先させたのだろう。
鬱々と考える思考。
それに支配されて、もう五年の歳月が経っている。
目を開けると、永遠の白い天井がある。
もう何年も同じ風景を見ている。
病院の天井は飽くことなく白でありつづけた。
「うぅ・・・」 うめき声をあげながら、辛うじて首を動かす。
俺の意志で動かせるのは、それが限界だった。
全神経麻痺。
五年前に告げられた、その病気を理解するのに月日は掛からなかった。
体に力が入らず、何をすることも出来ず、病床で息をするだけになった。
それからは地獄の日々だ。
個室病棟が俺の全てで、けれどそれすら見るだけの空間。
手も足も動かすことができず、感覚も無い。
だから生きている感覚も、無い。
ただ、生かされている。
久しぶりに夢を見ていた。あれは、きっと俺の理想なんだろう。
アキがいて、ナツがいて、俺がいて、みんなが笑っている。
いつまでも。
笑みを上手く作ることが、今の俺には出来ない。
アキの優しい微笑みも、随分見ていない。
俺が、がらんどうになってしまった、その日から。
予兆は無く、授業中に意識を失った俺は、指一本動かすことが出来なくなった。
言葉も形作れない俺は、文字通り『意味の無い』生き物に成り果てた。


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